ねずみの血

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 繁殖能力──それは、その種族が栄華を誇るために必要なステータスであります。  寿命が短い生物ほど、繁殖能力は高い傾向にあり、もはや大家族なんて小さなものでは収まらないぐらいのスーパーネットワークになるわけでございます。  江戸の世に、(よし)()(みつ)(よし)なる和算家がおりました。そのお方は、著書『(じん)(こう)()』において、『ねずみ算』という計算問題を作り、はてさて、解答や如何(いか)にと世に問いかけました。  その問題は、次のようになっております。 《正月に、ねずみのつがいが現れ、子を十二匹産んだ。そして親と合わせて十四匹となった。このねずみは、二月に子ねずみがまた子を十二匹ずつ産むため、親と合わせて九十八匹となった。()(よう)に、月一度ずつ、親も子も孫もひ孫もそれぞれ月々に十二匹ずつ産むとするならば、十二ヶ月後にねずみは如何ほどになるか。》  等比数列による計算式を用いると、答えは『276億8257万4402匹』となります。このような『急激な増加』を指して、『ねずみ算式に増える』と言う言葉が生まれました。悪い意味でよく使われる『ねずみ講』もここに由来しております。  しかし、ねずみには天敵がございます。皆様ご存知の、猫ですね。  猫がねずみを狩り続けたために、ねずみは地球を支配できませんでした。猫さえいなければ、今ごろ地球はねずみの楽園になっていたでしょう。もしかしたら、言語を話し、技術を会得し、宇宙にまで侵攻していたやも知れません。  ところが、ではその猫がねずみを捕食しているのかと申せば、実際はあまり食べていないのです。  猫には、動くものを追いかけてしまう習性がありまして、ねずみのように駆け回るものは格好の玩具なのでございます。  やや残酷な話でありますが、  猫がねずみを見つけた  ↓  ねずみが逃げた  ↓  逃げたから猫が追いかけた  ↓  追いかけているうちに我を忘れた  ↓  ねずみに噛みついた  ↓  そうしたら暴れた  ↓  暴れたから強く噛んだ  ↓  そうしたら死んじゃった  ↓  動かなくなったから興味も失せた  ↓  遊びの時間終了。  となるわけでございます。ねずみは本当に狩られ損。結果、種族の繁栄がなされませんでした。
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