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こう言っちゃなんだが、俺様は自分が昔から“美猫”だって自覚があったんだ。
耳の先からしっぽまで真っ黒、つやっつやの黒猫!しかもオッドアイ!本当に野良猫なのか?って疑われるくらいの美形っぷりだろ?それが大人になるにつれますます磨きがかかって……ってまあそれはいいや。
そんな自分の美しさに子猫の頃から自覚があった俺様だが。猫生で一度だけ、俺様と同じくらい綺麗な猫を見たことがあったんだ。
それが、我が家の向かいに建ってた白い家に住んでた猫だな。
ん?どんな家だったって?お前もガキだったからよく覚えてねえか。一軒家だよ。二階建てで、藍色の三角形の屋根があって、四角い窓があってさ。いちごミルクみたいな、妙にカラフルなカーテンがかかってたっけ。その家の二階の窓が、丁度我が家の窓の真正面になる位置で。あの家の窓際に、真っ白な猫が座ってたんだ。
いやあ、感動したね。
あの青い目!真っ白でつやつやの毛並!ピンと立ったちょっと大きめの耳にふさふさのしっぽ!まさに俺が理想とするような、最強の美猫が座ってたんだから!
まあようするに、一目惚れだったわけだよ。
向こうもまだ子猫なのはすぐにわかった。俺と同じくらいチビだったからな。成猫になったら、さらに美しくなるに違いねえと興奮したもんさ。
『おいお前!そこのお前!名前はなんていうんだ?俺とデートしてくれねーか!』
俺は必死で鳴いてアピったとも。しかし、残念ながら窓はお互い閉まってるし、距離はあるしで声はちっとも届きやしない。向こうも口が動いてたから、なんか喋ってくれてんだろうなってのは思ったけどほとんど聞こえないっていうな。
仕方ないから、俺は身振り手振りで好き好きアピールだ。鏡の前で練習した猫パンチのかっこいい姿を見せつけたりとか、俺の自慢のふわふわ尻尾を揺らしてみたりとかな。
多分向こうにも、俺様の声なんか聞こえちゃいなかっただろう。でも、俺が好意を持ってるってことは伝わったみたいだ。嬉しそうにしっぽを動かして返事をしてくれたよ。俺は、それだけで充分嬉しかったんだよな。
いつか、あんな美猫な嫁さんを迎えたい。
白と黒の可愛い子猫に囲まれて、幸せに暮らしてみたい。チビの頃から、俺はそんな妄想を抱くようになってたってわけだ。え?女好きにもほどがあるって?うるせえや、可愛い可愛い俺様の初恋を下品なものみたいに言うんじゃねえ。お前だってクラスのミナミちゃんに……あーはいはい。しょうがねえな、黙っててあげますよっての。
あーもう、余計な茶々入れやがるから、どこまで話したかわかんなくなっただろーが。
……そうそう。思い出した。白猫ちゃんに俺様が一目惚れして、お近づきになりたいなーって思ってた話な。
最初はただそれだけだったんだけどな。
段々と気づいたんだ。その家、なんか様子がおかしいなって。
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