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俺はその白猫ちゃんに惚れてるからよ。子供の頃は、暇さえあれば二階の窓際に座ってたんだよな。お前もよく覚えてるだろ?
でも、俺様がいくら二階で待機してるからって、いつも白猫ちゃんに会えるとは限らない。彼女……メスだったと信じてるが、今思うと実はオスだった可能性もあんだよな、だって近くで話してねーし……と、とにかく彼女ってことにしておこう。彼女が窓際にいない時も当然あって、そういう時はしょんぼりしたもんなんだけどさ。
ある日、白猫ちゃんの代わりに、窓際に女の人が立ってたことがあったんだ。結構派手なドレスっぽい服着てるのに、なんか妙に痩せてるというか、やつれて目の下にクマができてるような女。……まあそうだな、カイヌシ、お前の母ちゃんと同じくらいの年の女だと思うぜ。そいつのドレスも、カーテンと同じいちごみるくみたいな派手な柄をしてたな。白地に赤い模様が散ってんの。
そいつはぼんやりと窓に近づいて、道路の方を見てるようだった。やがて意を決したように、窓に手をかけるんだ。どうやら窓を開けたいらしい。でも、なんか鍵がうまく開かなくて、ずっとがちゃがちゃがちゃがちゃしてんのな。自分の家の窓の鍵が開けられねーってどんだけ不器用なんだよ、ってちょっと呆れたね。まあ、うっかり窓がぶっ壊れちまった可能性もあるけどさ。
暫くそいつは、窓と戦ってたみたいだ。
ちっとも開かなくて、焦ってきたところで――やっと気付いたらしい。真正面の家から、自分を見ている俺の存在にな。
猫を飼ってる家の人間が、猫を嫌いなはずがない。
うちのネコが一番可愛いからよその猫なんか!って思ってる奴もいるだろうけどさ。だからって、たまたま見かけただけの飼い猫をそこまで嫌う奴なんかそうそういないと思うだろ?
ところが、そいつは俺を見るなり目をかっぴらいてさ。そんで。
『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
ってなもんだよ。いきなり大絶叫。
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