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髪をかきむしって、自分の顔をがりがりと血が出るほど引っ掻いて。悲鳴あげられた俺の方がビビっちまったよ。なんなんだ、この世界一美しい美猫な俺様を見て、断末魔みたいな悲鳴を上げるなんてどういう了見だってな!
女は血まみれになるほど顔を引っ掻いた。その血が、ぽたぽたと白いドレスに垂れてくんだ。
そこで俺は、ようやく気づいた。
そいつの服は白地に赤い柄が散ってたわけじゃない。多分カーテンもそうだ。いちごみるくみたいな可愛い柄なんてもんじゃなかった。
血なんだ。白いドレスに、血が飛び散ってたんだ、カーテンにも。
『な、なんだ、何なんだ一体……?』
そいつは叫びながらすっころんで、怯えるように家の中に引っ込んでいった。引っ込んでもまだ、暫くは悲鳴が聞こえ続けてた。窓ごしだぜ?向かいの家だぜ?それなのに聞こえ続けるってどんだけの声で叫んでるんだよって話だよな。
実は、話はこれで終わらねえんだ。
白猫が窓際にいる時はいい。でもそうじゃない時は、かわるがわる人間が窓の前に現れるんだ。大体四つパターンがあって、あの中年の女の時と中年の男の時、双子の姉妹が立ってる時だ。
みんな、血が飛び散った服を着てて、窓をこじあけようと必死になってるんだ。まるで家の中にずっと閉じ込められてるみたいにさ。で、そっちを見ている俺の顔に気づくと、必ず怯えて悲鳴を上げる。
『ああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
『いや、いや、いやああああああああああああああああああああああああ!!』
『ねこ、猫、猫猫猫猫猫、あああああああああっ!』
『ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!』
何だっていうんだ、一体。
段々と俺は怖いというより腹立たしくなってきて、窓の外を見る頻度が減った。というか、白猫が窓際にいなかったら窓の傍に行くのをやめたっていうのが正しい。
まったく、失礼がすぎる。ていうか、あの人間どもはみんな頭がイカレちまってるんじゃねえのか?昼だろうと真夜中だろうと関係なく叫ぶんだぜ、近所迷惑ったらありゃしない。
あんな滅茶苦茶な家で暮らしてるんだから、きっとあの白猫も不幸なはずだと、そこまで思うようになったんだ。あの子、なんとかしてうちに引き取って貰えねえかなってな。
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