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メグ
「三組の松永くん、退学すんだってー」
いつも一緒にいるグループの中の一人がもたらした情報。退学する生徒なんて滅多にいないから、みんな瞳を輝かす。でも、グループ内のほとんどのメンバーは松永くんを知らなかった。もちろん私も。
「誰それ?」
「退学ってなんで? なんかやらかしたの?」
「さあ……?」
「あたし去年同じクラスだったけど、」
一人がそう言いながら不思議そうな顔をした。
「大人しくて真面目そうな男子だよ。めっちゃ影薄い感じの」
「えー? じゃあ何か問題起こして退学になったわけじゃなさそうだね。どうしたんだろ」
「いじめられてたりとか?」
「いやあ、人気者って感じでもないけどそれなりに仲良さげな友達もいたし、いじめではないような……」
「じゃあ成績悪すぎて退学させられるってのは?」
「いくら成績悪くても留年すっ飛ばして退学させられるかなあ」
「家が貧乏で学費が払えなくなったんじゃない?」
「経済的な事情なら奨学金とかバイトとかで卒業までなんとかなりそうだと思うけど……それでもやばいくらい切羽詰まってんのかなあ」
みんなでうーんと首を捻る。
けれど、ほとんど知らない人についてあれこれ考えたって、答えが出るわけでもない。私に至っては顔も見たことないレベルだし。
だんだんと飽きてきて、私はみんなの会話を聞き流しつつ自分の爪を指の腹で撫でたりしながら弄っていた。
ラメの入った水色のネイルポリッシュでカラーリングした上に、ストーンを散らした私の力作。セルフネイルは私のささやかな趣味なのだ。今はお金がない高校生というのもあって、100均のネイル用品コーナーに足繫く通う日々だけれど、大学生になったらジェルネイルもやってみたいし、ネイルサロンにも行ってみたい。
そうこうしているうちに、いつの間にかみんなの話題は進路面談についてに変わっている。
「メグは進学希望?」
話しかけられて、私はこくりと頷く。
「そだよー。志望校はまだ決めてないけどね」
そうだ。私は大学に行きたい。こうやって毎日なんとなく遊んだり勉強したりして受験して高校を卒業して、大学に入学するのだ。
頭の中にまだ残っている松永くんという謎の存在がふっと大きくなって、脳内を占拠する。
変な人だなと思う。高校を辞めるって、みんなと違う道を進むってことだよね。怖くないのかな。
私にはわからない。そう思った瞬間、彼の存在はパチンと消えて私の興味から消えていった。
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