飛べる羽

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コタツ。それは地上の天国。ひとたびその心地よさを知れば離れられない。 ペンギンのホセもその一人、いや一匹だった。 かつて彼は南米の西海岸で暮らしていた。 ある日、魚を追いかけていた彼は、迷子になって見知らぬ地にやってきた。 そこは未開のジャングルであった。 この先をいけばいつものすみかに帰れるかもしれない、と思ったホセは奥へと進んでいった。 毒ヘビなどの危険な生物にビビりながら歩いていく。飛べればこんなジャングルを通らなくていいのに、と自分の羽に悪態をつきながら。すると、ツタが絡まった神殿らしき遺跡があった。 ひとまずここで休もうと、なかにはいってみるホセ。 なんとそこには、開いた天井からさしこむ光の下に女性がただずんでいた。 簡素な白い絹のドレスを身にまとう女性。その人からも光があふれでていて、まぶしい。 「お祈りに来てくれたのですね」 そう女性は話しかけてきたが、あまりのまぶしさにホセは目だけでなく口を開くこともできない。 「ああ。千年ぶりです。いいえ、もっと経っているかしら。この日をどんなに待ち望んだことか! お礼にあなたの望みをなんでも叶えましょう。なにがお望みですか。さあさあ」 突然願望を叶えると言われ、ホセはとまどいながらも、さっきまで考えていたことを言った。 「えっと、空を飛びたい」 「わかりました。あなたに飛べる羽を授けましょう」 そう女性が答えたとき。 背中にハクチョウに似た白い羽がはえた。ペンギンの黒い羽はそのままに。 ホセは白い羽を動かしてみた。宙に浮かんだ。 「わあ。わあ。僕飛んでる!」 舞い上がったホセ。どこまでも飛んでいける気がした。もとの場所には帰らずに、まだ見ぬ世界を放浪する冒険が始まった。 そして、たどり着いたのがコタツのある国。 初めて布団つきのテーブルのなかにはいったとき。 ……ああ。このぬくもりは、お母さん! そこには、羽毛で抱く母の懐と同じぬくもりがあった。 こうしてコタツから離れたくなくなったホセは、日本に定住したのであった。 【おしまい】
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