1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
コタツ。それは地上の天国。ひとたびその心地よさを知れば離れられない。
ペンギンのホセもその一人、いや一匹だった。
かつて彼は南米の西海岸で暮らしていた。
ある日、魚を追いかけていた彼は、迷子になって見知らぬ地にやってきた。
そこは未開のジャングルであった。
この先をいけばいつものすみかに帰れるかもしれない、と思ったホセは奥へと進んでいった。
毒ヘビなどの危険な生物にビビりながら歩いていく。飛べればこんなジャングルを通らなくていいのに、と自分の羽に悪態をつきながら。すると、ツタが絡まった神殿らしき遺跡があった。
ひとまずここで休もうと、なかにはいってみるホセ。
なんとそこには、開いた天井からさしこむ光の下に女性がただずんでいた。
簡素な白い絹のドレスを身にまとう女性。その人からも光があふれでていて、まぶしい。
「お祈りに来てくれたのですね」
そう女性は話しかけてきたが、あまりのまぶしさにホセは目だけでなく口を開くこともできない。
「ああ。千年ぶりです。いいえ、もっと経っているかしら。この日をどんなに待ち望んだことか! お礼にあなたの望みをなんでも叶えましょう。なにがお望みですか。さあさあ」
突然願望を叶えると言われ、ホセはとまどいながらも、さっきまで考えていたことを言った。
「えっと、空を飛びたい」
「わかりました。あなたに飛べる羽を授けましょう」
そう女性が答えたとき。
背中にハクチョウに似た白い羽がはえた。ペンギンの黒い羽はそのままに。
ホセは白い羽を動かしてみた。宙に浮かんだ。
「わあ。わあ。僕飛んでる!」
舞い上がったホセ。どこまでも飛んでいける気がした。もとの場所には帰らずに、まだ見ぬ世界を放浪する冒険が始まった。
そして、たどり着いたのがコタツのある国。
初めて布団つきのテーブルのなかにはいったとき。
……ああ。このぬくもりは、お母さん!
そこには、羽毛で抱く母の懐と同じぬくもりがあった。
こうしてコタツから離れたくなくなったホセは、日本に定住したのであった。
【おしまい】
最初のコメントを投稿しよう!