批判は大事

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 卓は愛想の良さだけで生き抜いて来たような男だった。ウーバーイーツの仕事もそれで熟して来た。  ご多分に漏れず上辺の明るさ重視、見た目重視の男だった。  で、リピーターの顧客の女を好きになってしまった。いつも明るく応対してくれるし、可愛くて胸が大きいのも自分好みだからだ。  いつも愛想が良いし、イケるかもと単純に思い、今日こそは告白しようと心に決めたもののどう言えば良いだろうと自分なりに考えた末、よし、まずはこれで行こうと決めて自転車を走らせた。  彼女はマンションに独り暮らし。良い子だからきっとOKしてくれると勝手な理屈をつけて心に念じ、成瀬翔子ちゃん成瀬翔子ちゃんと彼女の名前を繰り返し呟きながらインターホンを押した。 「は~い!」翔子はいつもの通り明るく出て来た。  卓もいつもの通り明るくやり取りしてからいつもよりぎこちない笑顔で言った。 「あのー、ラインに登録してますか?」 「ええ」 「あっ、やっぱり、じゃ、あの、良かったらID交換してくれませんか?」  すると、翔子は青眼から白眼になり、笑顔から渋面になって言った。 「そういうことは無理です」  その形相の迫力にすっかり気圧された卓は、すごすごと外へ出て行った。  その後、卓が来るまで友達の紗栄子とビデオ通話を楽しんでいた翔子は、卓から送られたピザハットを食べながらビデオ通話を再開した。 「はぁ、うめえ!うめえのは良いに決まってんだけどさ、配達員がサイテーでさ、ID交換してくれませんかだと。170センチねー癖に調子に乗んじゃねーよ。ったく、170センチねー男はAカップの女があたしと友達になる資格がねーようにあたしにアタックする資格なんかねーんだから。はぁ、きも」 「ハッハッ全く卍同感。きもいのもそうだけど、やばくね?怖くね?」 「やべーよ!こうぇーよ!」 「ストーカーになる危険性ありありじゃね?」 「ありありだよ!あー、きも。あの笑顔、思い出すだけで寒気がする」 「ハッハッハッハ!チビはショーコの前では人権なしだね」 「言えてる。骨延長手術してから出直せって話だよ。つうか、二度と会いたくねーしー」 「ハッハッ痛い程分かる。その気持ち」 「こんな気持ちになるの、初めてのことだよ」 「ハッハッご愁傷様ってとこじゃね」 「全くだよ・・・」少し会話が途切れてから紗栄子が言った。 「そろそろ嫌な気持ちがピークアウトしたんじゃね?」 「うん、このピザうめえから。あっ、そうそう、ピークアウトで思い出したけどさ、世間では馬鹿の一つ覚えみてえにピークアウト!ピークアウト!って言ってるけどさ、コロナがピークアウトしたって話、デマらしいよ」 「マジで?」 「うん、側聞したところによりますと、世界的にはピークアウトしてんだけど、日本は杜撰な感染対策が祟って中々減らないんで岸田が焦ってさあ、都道府県にあんまり検査しないようにって通達したらしいんだ」 「マジで?検査キットが不足してるからじゃなくて?」 「側聞したところによりますと、検査キットを買う金は有るんだけど温存してるらしいよ。要するに検査する気ないんだ」 「ってことはつまり、何、感染者数が減ってるのは検査サボってるから?」 「ピンポーン!日本を陽性率40%以上(因みにあんなに酷かったアメリカが10%イギリスが7%インドが5%まで封じ込めている。検査をしっかりやっているからだ)っていう滅茶苦茶なことにした杜撰な感染対策がばれると、今度の選挙に響くから」 「杜撰な感染対策を隠蔽する為に・・・」 「ピンポーン!あんまりやり方あくどいから受けなくね」 「岸田受けるんですけど~でも何でメディアは岸田のギャグを報道しないの?不思議じゃね」 「政府にとって不都合な事実をメディアは報道出来ないんだよ」と突然、容喙したのは紗栄子の隣に居て二人の話を聞いていた紗栄子の彼氏だった。「メディアは政府に忖度するんだ。それと言うのがジャーナリストの多くが取材しない、勉強しない、意気地がない、正義感がない、バイタリティがないというのもあるけど、安倍政権の時に特定秘密保護法ってのが成立して国民の知る権利やメディアの取材の権利が侵されて秘密情報を漏洩すると刑罰が科せられるようになったし、共謀罪とか放送法なんかも政府は盾にしてメディアの行政指導したりしてさ、言論の自由を封殺し、言論弾圧、メディアバッシングする訳よ。そんで民主主義の根幹である表現の自由、報道の自由を奪ってしまう政府に対し、メディアは自主規制せざるを得なくなったのさ。なので本来、政府に批判的な報道をするのは権力監視の役割を担うメディアにとって当然のことなんであって批判的な報道が出来る社会こそが健全なんだけど、安倍政権になってから思うような批判ができない不健全なファシズム的社会になっちゃったんだよ。逆にメディアが政治に関しても批判できれば政治家の悪事を抑止出来て社会が浄化するだろ。だから批判すべきことは批判しなきゃ駄目なんだ、と思う僕は君たちの会話にも批判すべき点を多々見い出したんだがね」  
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