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翌日目が覚めると、熱が引いたのか体がだいぶ軽くなった。
まともなご飯が食べられそうなので、キッチンに立ってうどんを茹でると、ケータイに溜まったメールに返信して、熱々のうどんを啜った。
忘れないうちに薬を飲むと、シャワーを浴びてリビングでテレビを見る。
そのうち退屈になってきて、キッチンで昼ご飯のサンドイッチを作ると、スポーツドリンクが入ったペットボトルと一緒に部屋に持って行って参考書を開く。
少し寒気が残っているので、クーラーはつけずに扇風機のゆるい風を起こし、熱中症にならない程度に風を通す。
まだ少し頭はぼんやりとしているけれど、集中すれば勉強内容も頭に入ってくる。
4時間ほど集中していただろうか。インターホンが鳴って勉強を中断する。
「なんだろう」
ゆっくりと物音を立てないように階段を降りると、その途中でまたインターホンが鳴る。
何度かインターホンが鳴るので、宅配便か何かだろうかとモニターを覗くと、そこには和亮の姿があった。
「……え?」
突然のことに驚きつつもインターホンに出ると、暑いからとりあえず中に入らせて欲しいと和亮が笑った。
玄関まで迎えに出て鍵を開けると、和亮はすぐに具合いの悪い羽奏の様子に気が付いたらしく、少し表情を曇らせる。
「もしかしてワカちゃん具合い悪い?」
「ちょっとね、夏風邪」
「インターホンなんで出たの。他に家に誰も居ないの?」
「うん。みんなで家族旅行に行ってる」
「……え、ワカちゃん置いて?」
和亮が信じられないように驚いた顔をするので、違うと否定すると、とりあえず中に案内してソファーに座る。
「和亮くんごめんね。せっかく来てくれたけど、みんな明後日まで帰ってこないんだ」
「明後日までって……どうして具合いの悪いワカちゃん置いて行ったの」
「燈哉たちが楽しみにしてたから、キャンセルしたら可哀想で。それに風邪だから大したことないし」
「……だから一人で留守番してるんだね」
「うん。あ、ごめん。外暑かったよね、お茶いれるね」
思い出したように立ち上がると、咄嗟に腕を掴まれてソファーに座らされる。
「いいよ。それよりお昼は食べたの?薬は?」
「食べたし飲んだ」
「良かった」
ホッとしたように和亮が大きく息を吐く。
「それより今日はどうしたの、和亮くんがうちに来るなんて、久々だね」
「まとまって夏休みが取れたから、ご無沙汰してるし挨拶に来たんだ」
「そうだったんだ。ごめんね、みんな居なくて」
「大丈夫。ワカちゃんが謝ることじゃないよ」
そう言って柔らかく微笑む和亮の顔を見ると、無性に苦しくて泣きそうになる。心がギュッと握り潰されたように痛む。
「ごめんね和亮くん」
「どうしてそんなに謝るの」
ポンポンと頭を撫でられて、羽奏は嫌と言うほど思い知らされる。やっぱりこの人が好きなんだと。
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