望まざる再会の火種

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 藤咲家の面々は両親も含めて結婚を急ぎたがる節がある。  二つ年上の兄は学生結婚をし、家庭円満、36歳の若さで結婚17年目を迎え、高校生に成長した甥っ子も早熟で常に彼女の噂が絶えない。  そして三つ下の弟は24歳で職場結婚。今ではすっかり子煩悩な二児の父。  極め付けは五つ下の末っ子である妹。彼女は高校時代に妊娠し、そのまま高校を卒業するとすぐ結婚し、こちらも今では子育てに忙しい三児の母だ。  羽奏も当然、なにごともなければ兄弟たちのように若いうちに結婚していたと思う。  結婚自体を否定する訳ではないが、苦しい恋を思い出して頭の中と心が真っ黒に染まる。あんなことさえ無ければ。 「……からな?急な話だが頼んだぞ」 「え?なにごめん。聞いてなかった。急な話ってなに」  父が羽奏に話し掛ける声に意識を引き戻され、慌てて耳を傾ける。 「だからな、顔見知りとは言え、形式的に顔合わせしようってことになったから、今度の土曜、都合つけてくれ」 「はあ!?」  呑気に今度の土曜と言うが、今日は木曜なのでつまり明後日と云うことだ。  あまりに急なことに眉間に皺を寄せると、なんて顔してるんだと父がまた呆れた声を出す。 「あのなぁ、我が家の気掛かりはお前の結婚なんだよ。それこそ左鏡は、今や警視庁で活躍してる人材だ。結婚まで話が進めば俺だって安心できる」 「ち、ちょ、待って。そんな立場なんだから左鏡さんだって相手を選ぶ権利があるでしょ。そんなの焦らなくても可愛いお嫁さんすぐ見つかるでしょ」 「なに言ってんだ、それが見つからなかったからだろ。あいつもう42だそ。今更変な女に誑かされるより、お前なら安心できるって左鏡本人が言うんだから」 「左鏡、さんが?」 「ああ」 「……安心って。それ、本当にご本人は納得してるの?」 「納得もなにもないだろう。上からの縁談を断り続けて後がないらしいし、34のお前で良いって言ってくれてるんだ。左鏡の気が変わらないうちに決めてこい。土曜は頼んだぞ。俺の顔を立てると思って」  口先だけの謝罪を見つめて煎餅をかじると、羽奏はすっかりぬるくなったお茶を喉に流し込む。  そのあと、久々に母の手料理を食べたはずだが味どころか、なにを食べたのかすらよく覚えていない。
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