羽奏

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羽奏

 晩御飯を食べ終えて片付けを済ませると、勉強をしたいと部屋に戻る羽奏に和亮がついてきた。 「和亮くん、いつ帰るの?」 「羽奏、呼び方間違ってるよ」 「……アキ。もう遅いよ?いつ帰るの」 「羽奏は俺に帰って欲しいの?」  和亮はそう呟くと、パタンとドアを閉めて、不意に背後から羽奏を抱きしめて腕の中に閉じ込める。 「ちょ……和亮くん!」 「羽奏、違うでしょ」 「……アキ」 「うん。なあに」 「ドア閉めちゃダメなんじゃないの?」  この部屋で二人きりになることは初めてじゃない。だけどドアが閉じているだけで、こんなにも緊張する空間になってしまうなんて思いもしなかった。  恥ずかしさと気不味さでドキドキする羽奏を更にギュッと抱き寄せると、少し屈んで首筋に唇を這わせながら和亮が呟く。 「俺は羽奏が思ってるような出来た人間じゃないよ」 「アキ?」  どういう意味なのか確認しようと羽奏が振り返ると、和亮はそのまま小ぶりな顎を掴んで強引なキスをして唇を奪う。 「んっ、んん」  息が苦しくなって、羽奏は力の入らない拳で和亮の胸元を叩く。  それでもキスは止まずに、分厚い舌が羽奏の口の中を暴れ回って、小さな舌はあっという間に絡め取られてキスが激しくなる。 「んっ、ふぅう、は、んん」  唇が少し浮いて離れる度に羽奏が息を吐き出して、甘い声が漏れて部屋の中に響く。  そのうちに更にキスは激しくなって、ぴちゃぴちゃといやらしく跳ねる水音が、羽奏の羞恥を一層刺激する。  和亮はキスをしたまま器用に羽奏を歩かせて移動すると、ベッドの上に押し倒して貪るようなキスを繰り返した。 「んふっ、んん」  求められて嬉しい反面、どこか得体の知れない恐怖が湧き上がってきて、羽奏はなんとか手に力を込めて、覆い被さる和亮を跳ね除けようと必死で体を離すように押し上げる。  しかし抵抗すればするほど和亮が羽奏を抱きしめる力は強まって、Tシャツの裾が捲り上げられると、ゆっくりと乾いた手のひらが直に肌に触れて胸元に近付いてくる。  じゅるりと音を立てて、口から溢れ出たどちらのものともつかない唾液を啜り上げると、和亮は獰猛な目つきで羽奏を見下ろした。  羽奏は恋や愛の劣情よりも、身の危険を感じて小さく震える。  自分が好きなのはこんな強引に羽奏を奪うような人だっただろうかと。 「羽奏……可愛いね」  和亮は呟くと、Tシャツをたくし上げて剥き出しになった胸元に吸い付いた。  ビリッとひりついた痛みのような刺激が胸元に走り、羽奏は小さく悲鳴をあげる。  そのまま乱暴にブラジャーごと胸を揉みしだくと、和亮はもどかしそうに背中に手を忍ばせて、ブラジャーのホックを外す。  震える羽奏を落ち着かせるように優しく口付けると、万歳させてTシャツを引き抜き、今度は腕を下げさせてブラジャーの肩紐を抜く。  ぷるんと震えて剥き出しになった可愛らしい乳房を、少し汗ばんでしっとりする手のひらが強弱をつけて揉み始める。 「羽奏のここ、小さくて可愛い。みてごらん、ぷっくり立ってきたよ」  人差し指で乳首を弾くと、すぐに唇で吸い付いて、前歯で乳首を甘噛みすると、痛がる羽奏の頬をそっと撫でてから、気持ちよくなるよと舌を使って飴を転がすように乳首を舐った。 「ん……あぁ、いっ」  やわやわと手のひら全体で掴むように乳房を揉まれ、気持ちよさなど分からない状態のまま乳首をきつく摘んだり噛まれたりする。  羽奏は悲しくなって必死に和亮の名を呼ぶが、彼は興奮しているのか乳房を貪ったまま羽奏の顔を見る気配もない。  これが好きな人とのセックスなのだろうか。  和亮のことは大好きだし、女の子として求められることは純粋に嬉しかった。  けれどどんなに名前を呼んでも彼にはなにも届かない。羽奏を無視して行為が進むこの状況が辛かった。
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