羽奏

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羽奏

 次に目が覚めると空が白んで、茹だる暑さに汗が滲む。  クーラーはタイマーが切れて止まってしまったのか、扇風機の生ぬるい風が力なく部屋の空気を循環させている。  這いつくばってカーテンを閉めたまま窓を開けると、日陰になった窓際から少しだけ涼やかな風が入り込んでくる。  壁にもたれて膝を抱えていると、和亮が起きてきてキスをして、そのままなし崩しに行為が再開される。  けれど今度は指でじっくり慣らされて、丁寧に奥の深いところを擦られる。  初めて気持ちいい感覚が腹の奥底から全身に広がって、明らかに漏れ出るように蜜口が潤んだ。 「アキっ、やん……これっ、気持ち……ダメぇ、変になるよぉ」 「変になっていいんだよ。ごめんね羽奏。気持ち良くしてあげるからね」  そこから和亮は根気よく丁寧な愛撫を繰り返し、恥ずかしいほど蜜が溢れたところに楔が打ち込まれた。  ジリジリと迫り上がるような愉悦の波に、ようやく愛しい人に抱かれている実感が湧いてくる。  乾いた音が楔を穿ち、その楔をもっと奥まで呑み込むように、蜜口は一層泥濘んで卑猥な水音を立てる。 「羽奏、気持ちいい。ここがぐちゅぐちゅしてて、凄いね。奥がきゅんきゅん締まる。ん、羽奏、羽奏」 「ん。アキっ、アキ、気持ちいいよぉ、アキぃ」 「俺の可愛い羽奏」  横向きに寝かされると、片脚を抱えられたまま奥を穿たれて、身体が揺らされる度に嬌声を漏らして喘ぐ。  意識が飛びそうになると、秘唇に潜む蕾を弾かれて、あまりに強い快楽にその場に引き戻される。    窓が開いているので声を殺すと、それに気付いた左鏡はわざと責め立てるように乳首や蕾を執拗に捏ねた。  汗が飛沫のように飛び散り、腹の奥で和亮の吐き出した熱を受け止めると、乱雑に楔を引き抜かれて白濁した液がどろりと垂れ落ちる。  何度も何度も、和亮が吐き出す熱がお腹の中を満たしていく。  果てた楔が引き抜かれると、その度にどろりと白濁した残滓が溢れ出る。  シーツはもはやぐちゃぐちゃで、身体もあちこちに互いの体液がこびり付いて酷い有り様だ。  もう何時間そうしているのか分からない。  ただひたすら求め合って、体力が続く限り延々と互いを貪り合う。  ぐったりとして動けなくなった羽奏がベッドに倒れ込むと、それでも狂ったように和亮が後ろから容赦なく犯し、声が枯れ果てるまで啼かされ、奥の奥まで熱を注ぎ込まれた。  いよいよ限界が来て二人して汚れたベッドの上に倒れ込み、こときれたように眠り込んだ。 「うぅ、うっ」  次に起きた時、明らかに和亮の様子がおかしかった。 「アキ、どうしたの」 「あぁあ、羽奏」  羽奏を見つめて和亮が小さく慄く。 「アキ?」 「羽奏、俺は君になんてことをしたんだろう」 「……アキ?」  和亮は急に青ざめた顔を両手で覆うと、震えた声で何度も何度も、壊れたようにごめんと繰り返した。 「ああぁ、羽奏。ごめん、ごめんね羽奏。俺はなんてバカなことを……」  羽奏はようやく、和亮が過ちを犯して酷く後悔しているのだと気が付いた。 「アキ。大丈夫だよ」 「羽奏、ごめんね羽奏」 「大丈夫。大丈夫だよアキ。愛してるよ。アキ、これは夢。大丈夫。アキはなにもしてない。アキはなにも悪くない」  羽奏の腕の中で情けなく縮こまる和亮を抱きしめると、羽奏はようやく愛しい彼を諦める決心がついた。  このままそばにいたら、この人は壊れてしまう。  警察官(いいオトナ)女子高生(しょうじょ)を一晩中犯し続けた。  その事実が彼の心を抉るのだ。  どんなに愛してくれていても、この人のモラルが私を受け付けない。彼の中では私は幼い少女なのだと。  その日以降、羽奏が和亮と会うことはなかった。
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