和亮

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和亮

 暑さで吐き気がする。  不快感で目を覚ますと、窓辺で羽奏が膝を折って座り、手の甲で汗を拭っているのが見えた。  あんなに狂ったように抱き潰したはずなのに、その姿を見た瞬間に和亮の股間は熱く硬く勃ち上がり、焦点が定まらない目をした羽奏を抱き寄せると、可愛がらずにはいられなかった。  白んだ陽の差す部屋の中は既に蒸し暑く、頼りない扇風機の風が一定のリズムで頬を撫でる。  夜と違って明るいからか、恥じらうように顔を逸らす羽奏を見ていると、もっと自分のことを意識して欲しくて、和亮は焦らすように秘唇に挿し込んだ指を動かした。  奥を指で可愛がると、ようやく羽奏の中がそこまで潤ってないことが気になった。  初めてを強引に奪ったことで酷く痛がっていたのだと思っていたが、どうやらそうではないことに気が付いた。  和亮が我を忘れて夢中で貪っている間、ずっとこんな状態だったのだろうか。  痛みに耐えながら、無知な性欲だけをぶつける和亮をどんな気持ちで受け止めていたのだろう。  愛しさと罪悪感から、どうにか気持ち良くしてやりたくて、欲望の楔を打ち込むよりも、羽奏の身体をほぐして悦びを与えることに集中した。  紅潮する頬、明らかに泥濘んでいく身体の奥。  指を引き抜かなくても、潤んだ蜜が絡まってずるりと外に溶け出す。  明らかに愛撫が足りなかった。女性の身体は、丁寧に愛してやればきちんと男を受け入れるように出来ている。和亮はようやく、準備が足りず羽奏を苦しめたことに気が付いた。  芽生え始めた罪悪感が鋭い棘となって心を抉り始めたが、羽奏を見た瞬間、苛烈なまでの淫靡な表情で誘う姿に、和亮の理性はいとも容易く霧散していく。  蕩けて艶めいた顔で、気持ちよさそうに和亮の名を呼び、ドロドロに溶けた膣が和亮の昂りをギュッと締め付ける。  新たに芽生えた快楽を食い尽くすように貪り続ける。  じっとりと汗が浮き出て、鎖骨の窪みに水が溜まり、だらりと汗が腕を伝って流れ落ちる。  カーテンが翻って窓が開いていることに気付いたが、声を殺して享楽に耐える羽奏が可愛くて、打ち込んだ楔が膨張する。  和亮が熱を吐き出す度に、羽奏の小さなお腹の中から白濁した残滓が溢れ出る。  シーツはもはやぐちゃぐちゃで、身体もあちこちに互いの体液がこびり付いて酷い有り様だ。  もう何時間そうしているのか分からない。  ただひたすら求め合って、体力が続く限り延々と互いを貪り合う。  ぐったりとして動けなくなった羽奏を後ろから容赦なく犯し、独占欲を満たすように彼女の中に熱を注ぎ込んだ。  くたびれて意識を手放してからどれくらい経っただろうか。  暑さで吐き気がして、独特のムッとした匂いが立ち込める部屋で目を覚ます。  寝ぼけ眼のぼんやりとした目に飛び込んできた光景に、和亮は思わず嘔吐いた。 「うぅ、うえっ」  己の欲望のままに吐き出した体液の名残りがシーツを汚し、羽奏の純潔を奪った証が至る所を赤く汚している。  夢中で貪っている時には気付かなかった、いや、見ようとしなかったのか、惨憺たる有り様に、和亮は自分が何という過ちを犯してしまったのか、ようやく把握する。 「アキ、どうしたの」  和亮を呼ぶ、羽奏の甘い声すら真綿で首を絞められているようだ。  羽奏になんてことをしたんだろう。急速に血の気が引いていくのが分かる。  青ざめた顔を両手で覆うと、情けない声で何度も何度も、壊れたようにごめんと繰り返した。  取り返しのつかないことをしてしまった。  羽奏が手に入って嬉しかった。けれど、そこに踏み込んではいけなかったのに。  幼気な少女を一晩中犯し続けてしまった。  あれだけ自分を制御して最後の一線だけは越えないように、消えかかる理性をなんとか掬い上げ、なんとか自分を抑えていたはずなのに。  一番大切で守りたいはずの少女を、和亮は自らの手で汚してしまった。  こんなにも酷いことをしたのに、羽奏は和亮を抱きしめてアキは悪くないと繰り返す。  彼女の方がよほど成熟した大人ではないだろうか。情けない。羽奏の優しい言葉が一層和亮を苦しめる。  こんなはずじゃなかった。こんなことをするつもりはなかった。  愛してるとか好きだとか、甘い言葉を吐いて誤魔化すことは出来たかも知れない。けれど和亮にそんな余裕はない。  ただそこに在る、純潔を散らされてなお、和亮を愛おしむ純粋な眼差し。  耐えられなかった。  欲望に負けて、少女を食い潰した醜い自分を受け入れることが出来ない。  その日を境に、和亮と羽奏が会うことはなかった。
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