邂逅 -今-

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 そんな言葉が欲しい訳じゃないのに、羽奏が存在するだけで和亮を苦しめてしまう。  16年経った今でも、和亮の目には幼いあの日の羽奏がこびりついているのだろうか。 「そうやって自分のことばっかり。ずっと愛してるからなんて、気を持たせる言葉を聞かせておいて、すぐに谷底に突き落とす」 「それは」 「結局あの時も今も、和亮くんにとって私の思いなんかどうでもいいことなんでしょう?私がどうしたいかなんて聞いてもくれない。それなのに愛してるなんて酷い言葉を使う」 「羽奏……」 「私はあれから1日だって貴方を想わない日はなかったのに」  和亮が自分を愛することで、傷付き壊れた姿を見て、それでも彼を好きな想いが消えることなんてなかった。 「俺はどこかでその言葉が聞けることを望んでいた」 「私の貴方への執着を?」 「あんな別れ方をしても、どこかで愛してくれていたんじゃないかと思いたかった」 「本当に自分勝手」  メリーウィドウを一口飲むと、羽奏は和亮の手を取り、その骨張った指に自分の指を絡めた。 「でも、そんな貴方を今でも愛してる馬鹿な私」 「羽奏……」 「ねえ和亮さん、貴方は本当に私と結婚する気があって、こんな話を持ち掛けたの?それとも会って謝りたかっただけ?」 「君は俺の心を操るのが上手いな」 「質問には答えてくれないの?」  羽奏はグラスを傾けて、赤い蠱惑的なカクテルを口元に運ぶ。 「俺の過ちが消える訳じゃない。それでも羽奏に会いたくて堪らなかった」 「貴方は言葉が足りなすぎる」  本当に不器用なんだからと、呆れた言葉しか出てこない。  絡めた指先が淫靡に蠢く。 「どうしたって俺は君しか愛せない」 「ほら、結局自分勝手」 「そうだね。今も昔も、君が……羽奏が居るだけで俺はおかしくなる」 「本当に結婚なんてする気があるの?」  囚われっぱなしの心をそろそろ解放して欲しい。羽奏は今日再会した理由についての結論が欲しかった。 「羽奏が望んでくれるなら」 「また私に結論を委ねるの?酷い人ね」  握った手を離して、脱いだジャケットを羽織る。  大好きな和亮が、今度は贖罪のつもりで羽奏のそばに居ようとするなら、それほど苦痛なことはない。
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