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「違法なファイトクラブ?」  ナタリーは腰に拳銃とバッチを携え、そして腕を組み、こちらを見つめている。仁王立ちで威圧感のあるミラー捜査官。彼女は検挙率が高く、女性ながらFBIきってのエースだ。  ようやく一息付けると、助手のザックことアイザックに中華を買わせに走らせた。食事を胃袋に押し込んだのが数分前。煙草を咥えていれば、ナタリーは私の目の前に立ち、そんな言葉を吐いた。赤毛の彼女は私から言わせてもらえば少々我が強い。こちらの休憩時間など気にすることはないのだ。気付いたことがあればとことん人を振り回す。……まぁ、そんなことにはもうとうの昔に慣れてしまったが。だからエースともいえるのだろう。 「そう。今回のガイシャ、妙な痣などは無かった?」 「……んー。記録を見なければなんとも言えないが、確かに鈍的外傷、裂傷は酷かった。……ファイトと言われれば納得はいく。だが、確かに死因は銃創だ。右下腹部から入り肋骨の下、肺に弾が到達していた。左肩に射出口(しゃしゅつぐち)があったのは君も見ただろう? 推測としては揉み合いになり接近したまま撃たれたのだろう。裂傷はファイトとも言えるが、その時に出来た防御創という見解もできる」  ミラー捜査官は唇を捻り、顎に手を添える。考えるときの癖は私が解剖医としてこのFBIに就職した時となにひとつ変わらない。変わるとしたら、彼女の左手の第4指に指輪がはまり、一年足らずで無くなったということくらいだろうか。  咥えていた煙草の紫煙を吐き出す。私は自身の肺がシクシクと泣く音を無視してストレスを解消するために害を咥える。毎日遺体を見ていれば、いつ死ぬかなんて予想できないと痛感させられる。いつかくる未来の為に煙草を減らす、絶つなんて無意味だ。 「Ms.ミラー。なにかあったのか?」 「巷で話題になっていてね。今回の被害者に似た男がそこに出入りしていたと、目撃証言があったんだよ」 「だが、事件はギャングの物取りだと方が付いただろう?」 「だから困っているんだよ。再度洗い直さなければならない。まぁ、いい。ワイアット、ありがとう。邪魔したな」  心の中で、──確かに、邪魔だったな。と思うが声に出さないのがマナーというものか。ミラー捜査官は身体の反応ひとつで心のうちを自白させてしまうのだから厄介だ。私はひらり、彼女に手を挙げ、また煙草を体内に吸収させた。 「違法なファイトクラブねぇ……」
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