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なに? またスパゲティ?
私に家庭的な所を期待するなら他の女を探しな
……んー、なら、スパゲティでいいか
というかな、君がなにか作ったっていいんだぞ?
ワイアットのスパゲティ大好き
はぐらかすな
この数日間が思い起こされる。
私は愛について考える時いつもマーサの隣にいた。いつも頭の片隅にマーサがあった。マーサを通して愛とはなにかを考えた。
アイザックの言葉が脳を突き刺す。怯えているか……。そうだよ、私はなにかを変えるのが嫌いだ。騒がしいのが嫌いなんだ。出来れば平和に過ごしたい。けれども、もうそうも言っていられない。私が違法ファイトクラブに出入りしていたのは事実で、そこで一番稼ぐ男と友達になった。アイザックが言うなら愛さえ感じている。そいつが逮捕され、私に出来ることはマーサのアリバイを証明すること。アリバイを証明したら私と彼の関係は周知のこととなる。
「やぁ、ルート先生。こんなとこにいるなんて珍しい」
「甘いものが欲しくなってね」
スナック菓子や飲料水が入った自販機の前で私は途方に暮れていた。そこにジェイコブが顔を出す。私は金を入れ、チョコレートのボタンを押す。呑気なスピードで落下したそれを自販機から出し、袋を開けた。甘い香りして中からカラフルなチョコレートが出てくる。
「……模倣犯はどうだ?」
「黙秘してますよ」
ジェイコブはそんなことを言いながら自販機を蹴った。その振動で金を入れずに出てきたスナック菓子。誇らしげにこちらを見て笑うジェイコブ。こいつも犯罪者だったか。溜め息と笑いが溢れる。
「次からコツを教えます」
「知りたくないね。それよりその模倣犯は拘留されるのか? 一応状況証拠しかないだろ」
「72時間は保護できますからね。それにポケットからパーティードラッグが出て来た。そちらの罪でも拘留できる」
ナメているな。いつもは吸わないドラッグを持ってくるなんて。私への当て付けか? 違法ファイトクラブで働く罪にドラッグを吸う罪が加算されたぞ。それでも私を庇えるかという戦いなのか?
ぱりぱりとポテトチップを食べるジェイコブ。このアホな表情でものを食べる黒髪の男はナタリーの直属の部下。ナタリーが右腕のように使っている優秀な部下だ。人は見た目に寄らない。
「ナタリーは元のダンテ事件を追っているんで、俺が今回の模倣犯の件、一任されてるんです。意外と口が硬くて腹立つんすけどね。……あの若さで高級ダブルスーツ着てるんですよ。プロファイルには合わないんです。模倣犯の手口はもっと知能が低い。着ているものも肝の座り方も何もかも違う」
あいつダブルスーツを着てきたのか。どこまでもナメくさっている。そのスーツを着ておまえは死んだマフィアと会食しているんだぞ。調べられたらすぐに分かる。……調べられる前に公にしろ、自らの口で真実を話せということなのだろうか。ジェイコブが私とマーサの関係に辿り着くことに時間は必要ないだろう。
私は首元にナイフを突きつけられている。マーサはなんてサディスティックなのだろうか。
愛は盲目らしい。あいつも私しか考えていない事実が胸を高鳴らせる。ふつふつと煮えたぎる心。あいつの世界の一部になっている。私のこの気持ちが愛であれば、あいつの気持ちも愛である。気持ち悪いエゴイズム同士、犯罪者になるにはお似合いのような気がした。
もう考えるのは辞めたい。心が求めるままに。あいつはそれを望んでいる。
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