9話

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買ってきたお昼ご飯を食べ終わると、少しして私の荷物が運び込まれた。新しく買った家電も届いて、2人分の荷物や家電で家の中はごった返している。 「この荷物の山を見てると、片付けるのが途方もない道のりに思えますね……」 「だな。まあ、片付けないと生活出来ないからやるしかないんだが……」 「どこから片付けましょうか」 「そうだな……とりあえず、一旦場所ごとに荷物を分けて移動させるか。その方が効率いいだろ」 「確かに。片付けながら運んでたら時間かかりますもんね」 「運ぶのは全部俺がするから、お前はソファーにでも座ってろ」 「え、でも……」 「妊婦に荷物運びなんてさせられるわけないだろ。ほら、ソファー行って」 追いやるようにソファーに行かされて、仕方なく座る。しばらくボーっと見ていたけれど、目の前で箱を持って何度も行ったり来たりする姿を見ていたら、居た堪れなくなってくる。 気遣ってくれたのは分かってるけど……やっぱり、冬也さんにだけ運ばせるなんて駄目だよね。 無言でソファーから立ち上がった私は、近くにあるお風呂と書かれた段ボールを持った。これぐらいの重さなら全然大丈夫。 「冬也さん、これ……」 「ん? 何やってるんだ、荷物は俺が運ぶって言っただろ!」 持っていた荷物を勢いよく取られた上に、予想外な語気の強い言い方をされて、思わず目が潤み始めた。 そんな言い方しなくてもいいじゃない……ちょっと手伝おうと思っただけなのに…… 「……なあ、俺はお前の何だ?」 「え……?」 何って…… 「えっと……旦那さんに、なる人……?」 「そうだ。俺はお前の旦那になるんだろ。会社を一歩出れば、もう上司じゃない」 「あ……」 もしかして……気付いてたの……? 「こういう形での結婚だから、すぐに切り替えられないのは分かる。でもな、少しは俺に甘えてくれ」 「冬也さん……」 「……持ってきたのが軽いやつで良かったよ。重たいのだったらもっと怒るところだ」 「ごめんなさい……」 「反省したなら、ソファー戻るぞ。……ほら、手」 私が何か言うよりも先に手を取られて、大きな手に握りこまれた。そのまま手を繋いでリビングに歩いて行く。家の中なのにとか、初めて手を握られたとか、温かいなとか……色んな気持ちが次々と湧いては消えて、私の心の中が軽い混乱状態のままソファーに座らされた。 「大人しくここで待ってろ。移動が終わったら呼ぶから、片付けは一緒にやってくれ。俺、収納は苦手だから」 「はい……」 どこか気が抜けたまま返事をすると、頭を軽く撫でた冬也さんが作業に戻っていく。それをしばらく、私はボーっと眺めていた。 記憶に残っていないあの夜以来、冬也さんに触れられたのは初めてだったけど、全然嫌じゃなくて……優しくて大きな手は冬也さんを現わしてるみたいで、その手が離れていくのを寂しいと思った自分がいた。
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