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「――では、今後ともどうぞよろしくお願い致します」
取引先に課長と挨拶をした後、ホテルへと戻るために大通りでタクシーを拾う。
今日は出張最終日。これでやっと、地獄のような3日が終わる……
「上手くいったな」
「そうですね」
ほぼ課長の力だけど。こうやって一緒に仕事をすると、この人が有能だというのがよく分かる。そういう意味では、尊敬出来るんだけどなあ。
「――出張も終わったし、飲みにでも行くか。さっき部長が教えてくれた居酒屋、ホテルの近くだって言ってただろ」
「え……」
「お前酒飲めないんだったか?」
「いえ……課長にお誘いいただけると思わなかったので、驚いただけです」
やっと出張も終わりだとホッとしたのに、何が悲しくて2人で飲みに行かなきゃいけないの……ただでさえ気疲れしてるのに、2人で飲みになんて行ったら更に精神すり減る気しかしないー……
そうは思っても断る勇気なんて無い私は、結局課長と2人でホテル近くの教えてもらった居酒屋に行くことになった。
「――出張お疲れ」
「お疲れ様です」
オーダーしたお酒と食事が届いて、すぐに乾杯をする。グラスの軽快な音とは裏腹に、私の気分はどんよりと重い。そんな気分を少しでも晴らしたくて、いつもよりもハイペースでアルコールを摂取していく。
「――お前、大丈夫か? 顔赤いぞ」
「へぁ……? 大丈夫ですよー……」
「……絶対大丈夫じゃないだろ」
苦手な上司との出張で、ただでさえ気を張っていた所に勢いよく飲んだアルコール。元々お酒が強いわけではないとはいえ、まさか2杯でこんなに酔うなんて自分でも思ってなかった。いつもはまだほろ酔いぐらいなはずなのに。
「ホテル戻るか?」
「いーえ……!それよりほら、課長ももっと飲んでくださいよ」
「おい、俺だってそんなには……!」
「何言ってるんですか。課長が誘ったんですから飲んでくださいっ」
半ばヤケクソになってぐいぐいグラスを押し付けると、ちょっと焦りながらも飲んでくれる課長。酔いも手伝ってか、それがなんだか楽しくなってしまって、自分も少しずつ飲みながらどんどん課長にも飲ませていく。
この夜私が最後に覚えている課長の顔は、会社では絶対に見ることが出来ない、少し赤く染まったなんだか色っぽい男の顔だった。
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