12話

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12話

週末になり、2人で婚姻届けを提出した帰り道、並んで歩きながら少し高揚した気持ちで、隣で車道側を歩く冬也さんに話しかけた。 「休みの日でも、婚姻届けって出せるんですね。私知りませんでした」 「そうなのか? 俺も話に聞いた程度だったが、まさか自分が経験することになるとは思わなかったな」 「おめでとうございますって言ってもらえて、嬉しかったですよね」 「――そうだな」 珍しい冬也さんの柔らかい笑みに、ただでさえ高まっていた気分が更に上昇したのが分かった。 折角休日に2人で外出してるし、このまま家に帰るのも勿体ない気がするなあ。まだお昼だし。 「冬也さん、このまま何処かにお出かけしませんか?」 私が高まったテンションのまま誘うと、一瞬だけ驚いた表情をした冬也さんは、すぐに頷いて表情を和らげた。 「そうだな。まだこんな時間だし、このまま2人で何処か行くか」 「冬也さんは何か希望あります?」 「陽菜が決めろ。俺は何処でもいい」 「……もしかして、本当は面倒って思ってます?」 「は? ……ああ、何処でもいいって言うのはそういう意味じゃない。お前となら何処でもいいって意味で……」 「え?」 私となら何処でもいいって…… 「っ……いや、今のは違……うわけでもないが……」 「あの……?」 「――陽菜が行きたい所でいい。俺は、それで満足だから」 「そ、うですか……」 そんな優しい表情で見つめられたらドキドキする。さっき夫婦になったのに、まるで付き合いたてみたいな感じ。 冬也さん、私の事どう思ってるんだろう。さっきのも……どういう意味で言ったの? 「それで、何処に行きたい?」 「あ、じゃあ……どこかでランチしてから、映画に行きたいです」 冬也さんと普通にデートをしてみたい。2人で出かけた事はあっても、引っ越しの準備とかばっかりでデートって感じじゃなかったし。 「分かった。映画館の近くで店を探してみるか。入りたい店あったら言えよ」 「はい」 冬也さんとのデート、どんな感じになるんだろう。冬也さんは、どう感じるのかな。そもそも、デートだってちゃんと思ってるかな……? 「ほら、手」 「手?」 「一応、デート……だろ」 差し出された手に自分の手を重ねると、ぎゅって握ってくれる。その手の温もりが心地良くて……その日、映画デートが終わって家に帰るまで、握った手が離れる事は殆どなかった。
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