15話

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15話

お互いの気持ちを確かめた翌朝。ゆっくり休めと言って仕事に行く冬也さんを見送った後、自分のベッドに戻って横になった。 「とりあえず寝てみたけど……」 風邪気味ってだけで、熱があるわけじゃないから寝れそうにないなあ。かといって、休めって言われたのに動き回って悪化したら目も当てられないし。 「あ……冬也さんの匂いがする」 寝返りをすると、微かに感じた冬也さんの名残に少しだけ寂しさを感じて溜め息を吐く。冬也さんの腕の中で迎えた朝は2度目だったけど、やっぱり1度目とは違って、ちょっと恥ずかしかったけど嬉しかった。 「今日冬也さんが帰ってきたら、寝室一緒がいいって言ってみようかな……」 冬也さんが嫌ならしょうがないけどね。寝室は別がいいっていう夫婦もいるみたいだし。 断られたらちょっとショックだなあなんて考えながら、冬也さんの帰宅を待つ事数時間。夕食を一緒に食べながら思い切ってその話をすると、拍子抜けするぐらいすぐに了承してくれた。 「俺も一緒がいいって言おうと思ってた」 嬉しそうにそう言われて、私も嬉しくなった。同じこと考えてたなんて、通じ合ってるみたいだよね。 「どうせならベッドも買い替えるか。お互い元々使ってたベッドを持って来てるから見た目も違うし」 「じゃあ、ダブルベッドがいいですよね」 どんなのにするかワクワクしながら考えていたら、冬也さんの視線を感じてそちらを見る。 「どうかしましたか?」 「いや……本当に嬉しそうにしてるなと思っただけだ」 「?」 「俺と一緒にいて陽菜がそういう顔をしてくれるなんて、ほんの数か月前まで想像も出来なかった」 「あ……」 そっか……私が苦手に感じてる事に気付いてたみたいだったから……私だって冬也さんとこんな事になるなんて想像もしてなかったけど、この気持ちの差は結構大きい。 「昨夜の事も、夢だったんじゃないかって起きた瞬間に思ったりもしたが、俺の腕の中に陽菜の幸せそうな寝顔があってホッとした」 ――私も、朝起きてすぐに冬也さんがいてくれて、夢じゃなかったんだって凄くホッとした。 「……夢にされたら、私が困ります」 「俺だって困る」 お互いに顔を見合わせて笑い合っていると、冬也さんが何か思いついたような顔になった。 「俺からも1つ提案があるんだが」 「何ですか?」 「子供が産まれるまでの間、なるべく2人の時間を大切にしたい」 「はい」 「陽菜の体調が良ければ、旅行に行ったり近場へ出かけたりしたいと思ってるんだ。子供が産まれたら2人で出かけるなんて中々出来なくなるだろう?」 「つまり、デートしたいって事ですか?」 「まあ……簡単に言えばそういうことだな」 自分で言い出したのに、デートという言葉に照れている冬也さんに少しだけ笑ってしまう。 「笑うなよ。あんまりそういう誘いに慣れてないんだ」 「ふふっ……ごめんなさい。でも、凄く嬉しいです」 「そうか。……俺達は恋人同士で結婚したわけじゃないから、子供が産まれるまでは、そういうのを楽しんでも許されるだろ」 「つかの間の恋人期間って事ですね」 「ああ。行きたい所、考えといてくれ。俺は……」 「2人一緒なら何処でもいい」 「!」 「違いました?」 「いや……違わない」 「良かった。私も同じ気持ちですけど、そんな事言ってたら決まらなくなっちゃうので、行きたい所探しておきますね」 「ああ、そうしてくれ」 冬也さんの方からそういう事を言ってくれたのが凄く嬉しくて、2人で過ごせる時間が楽しみで仕方がない。 「……あ! 1つありました。行きたい所っていうか、やりたい事ですけど」 「何だ?」 「仕事帰りにデートしたいです」 「仕事帰り?」 「もし冬也さんとこうなる前に恋人になってたら、絶対仕事帰りに食事したりしてるでしょうし」 「まあ、そうだろうな。……分かった。そういう事なら店は俺が探しておく」 「いいんですか?」 「陽菜と恋人だったら、喜びそうな店を絶対に自分で探してるだろうからな」 「じゃあ、どんなお店か楽しみにしてますね」 「ああ」 恋人みたいな夫婦ともちょっと違って、急に夫婦になってからの恋人。だからなのか、ちょっとした事でもドキドキとワクワクが詰まっている気がして、そんなに特別感はない会社帰りのデートの予定も、凄く楽しみで仕方がなかった。
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