16話

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16話

デート予定日、仕事を定時で終わらせた私は、予め決めておいた待ち合わせ場所へ先に向かった。この日は残業はしないと決めていたらしい冬也さんも、10分ぐらい遅れてやってくるのが見えた。 「冬也さん、こっちです」 「ん……? ああ、お疲れ。待たせて悪いな」 「お疲れ様です。そんなに待ってないですよ」 「それにしても……何で態々待ち合わせなんだ? 一緒に会社を出ればいいと思うんだが」 予定を決めた時、待ち合わせ場所を決めましょうと言った時と同じ不思議そうな顔の冬也さんに、私は微笑んで見せた。 「ダメですよ冬也さん。今の私達は恋人なんですから。社内恋愛なら堂々と一緒に退社なんてしないでしょうし、こうやって待ち合わせするのも少し新鮮じゃないですか」 「そういうものか……? 俺としては、陽菜を1人で待たせるのは心配なんだが」 「心配?」 「ナンパでもされたら困る」 真面目な顔でそんな事を言うから、思わず吹き出してしまった。 「ふふっ……されませんよ。例えされたとしても、この指輪を見せて追い払います」 冬也さんから贈られた婚約指輪は、あれから毎日付けるようにしているし、そもそもナンパなんてされたことがない。 「はあ……陽菜の恋人は心配が絶えそうにないな。先に旦那になれて良かった気がする」 溜め息を吐きながら苦笑する冬也さんを見つめていると、緩く右手を繋がれた。 「デートするなら、これが自然だな」 「……はい」 ちょっとだけ力を入れて握り返すと、冬也さんがしっかりと繋ぎ直してくれる。それだけで、顔が少し緩んでしまった。 「まずは食事するか」 「そうですね。もうお腹ペコペコです」 「陽菜は2人分だしな。あんまり肩肘張らない店がいいって言ってたから、俺がたまに行ってた小料理屋に行こうと思うんだが」 「小料理屋?」 「高級ってわけじゃないが、味は保証できる」 「行きたいです」 冬也さんが通ってたお店に連れて行ってもらえるのって、ちょっと嬉しいな。どんなお店なんだろう。楽しみだなあ。
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