17話

1/1
前へ
/32ページ
次へ

17話

出産まで恋人期間を楽しむ事にした私達は、外でデートをするだけじゃなくて、家の中でも恋人気分で過ごしてみる事にした。 「陽菜、こっちはいつでも大丈夫だぞ」 「はーい」 お家デートと言えば2人で映画だよね!っていう単純な考えで映画鑑賞デートになったけど、冬也さんは割と楽しみにしているみたい。いつでも再生できる状態でスタンバイしている冬也さんの所に飲み物を持って行くと、部屋の中が薄暗くなっていく。 「本格的ですね」 「この方が楽しめるだろ?」 「はい」 冬也さんの希望でソファーじゃなくてラグの上に直接座ると、冬也さんは背後に回って私の真後ろに座った。 「冬也さん? それだと見えにくくないですか?」 「そんなことない。恋人ならこの位置が正解だろ」 自信満々にそう言う冬也さんに、そうかなあ?と頭を捻る。別に横並びでも正解だと思うけど…… 「これなら、こうやって……抱きしめながら見られる」 後ろからお腹の前に腕が回されて、上半身がすっぽり冬也さんの腕の中に納まっている。どこかで見た事のあるシチュエーション過ぎて、ちょっと恥ずかしい。こういうの、やり慣れてるのかな……あまりにも自然にやってる気がする。 「……冬也さんって、前の恋人にもこんな感じだったんですか?」 「こんな感じ……?」 「甘いというか……」 「甘い……? 陽菜の言う意味がちょっとよく分からないが、恋人とこういう時間を過ごした経験は少ないぞ」 「そうなんですか?」 「高校も大学もバイトばかりやってたからな。彼女がいなかったわけじゃないが、正直面倒に感じる事も多かった。社会人になってからも仕事優先で、恋人が出来たとしてもすぐに別れていたしな。自分から好きになったのは、陽菜が初めてかもしれない」 「え……?!」 衝撃過ぎて、振り返って冬也さんの顔をまじまじと見る。だってそれ、冬也さんにとって私が初恋って事にならない……? 「何でそんなに驚いた顔してるんだ?」 「いや、だって……」 「恋愛にあんまり興味が無かったからな。それよりも生活を安定させて、おふくろを楽にしてやることの方が大事だった。逆に言うと、陽菜に惹かれ始めたのは、他の事を考える余裕が出来たって事だったんだろうな」 そっか……お義母さんの事、大事にしてるもんね。 「陽菜は?」 「え?」 「今までの彼氏と、こういう感じだったのか?」 「えーっと……」 そりゃあ、付き合い始めとか……お互いに気持ちが盛り上がってるときは、スキンシップも多めだったような気はする。 「いや……やっぱりいい。言うな」 「どうしてですか?」 「……想像したくない」 「もしかして……妬いてます?」 それを肯定するみたいに、両腕に力が籠った。 「俺と違って、陽菜はちゃんと恋愛してきたんだろうしな。他の男にもこうされてたと思うと、冷静ではいられなくなる」 「……案外ヤキモチ焼きなんですね」 「陽菜に関してはな。でも、お互い様だろ。この前、陽菜だって妬いてた」 「それを言わないでくださいよ……」 「いいじゃないか。お互いそれだけ相手を思ってるって事だろう」 嬉しそうに言いながら、振り向いている私に優しいキスを繰り返す。最近気付いたことだけど、冬也さんはキスが好きらしい。寝室を一緒にして1つのベッドで寝るようになってから、必ず寝る前にはおやすみのキスがある。おやすみのキスがあるということは、当然おはようもあって……まさかそんな甘々な感じになるなんて思ってなかったから、最初は本当にビックリした。 「――お腹、段々大きくなってきてるな」 いつの間にかお腹を撫でていた冬也さんの手に、自分の手を重ねてみる。前よりふっくらしたお腹は、私達の子供がいる証だ。 「そうですね。ここからもっと大きくなるみたいですけど」 「そういや、おふくろが性別はまだ分からないのかって気にしてたな」 「あー……どうやら私達の子は恥ずかしがり屋さんらしく、中々ちゃんと見せてくれないんですよね」 エコーをしても肝心な場所は隠してる事が多くて、先生は多分男の子かなあって言ってたけど、女の子の可能性も捨てきれないらしい。 「冬也さんは、どっちがいいとかありますか?」 「健康に産まれてきてくれればどっちでもいいが……息子だと陽菜の取り合いになりそうだし、娘だと嫁に出すのが嫌になりそうだな。陽菜に似て可愛いだろうから」 産まれる前からそんな未来の事を考えているから、ちょっと笑ってしまう。 「さて……そろそろ映画見るか」 「今日の本題忘れちゃってましたね。そろそろ見ましょう」 顔をテレビ画面に向けて、背中を冬也さんに預ける。映画を見ている間、冬也さんの温もりをずっと背中に感じていて……まるで、以前からそこが自分の居場所だったみたいな安心感があった。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4596人が本棚に入れています
本棚に追加