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夜の方が景色が綺麗そうということで、夕食を食べて少し休憩をしてから入ることになったお風呂。
海の幸もお肉もあって大満足な夕食を終えて、しばらく2人でのんびりと過ごす。こういう時に最近話すのは、大体が子供のこと。冬也さんもお腹の上から胎動を感じられるようになって、お互いに子供がもうすぐ産まれるんだという実感が湧いてきているからなのか、名前やベビーグッズについてよく話してる。
「……もうこんな時間か。結構時間が経ってたな」
「本当ですね。楽しい時間はあっという間だなあ」
「まだ楽しい時間は終わってないが?」
やけに色気のある笑顔で見られてドキッとする。
「ほら、お風呂入りに行くぞ」
「……はい」
さっきの顔のせいで、一緒にお風呂に入るのが更に緊張してきた……
「先に入って温度確かめてくるから、ゆっくり来いよ」
冬也さんの背中を見送ってから、自分も服を脱いでタオルで体を隠しながら中に入ると、冬也さんが丁度体にお湯をかけている所だった。
「ん? ……陽菜、そのタオルは何だ?」
「えーっと……」
「これは邪魔」
最後の砦として持っていたタオルが冬也さんに取られてしまって、恥ずかしさで背中を向ける。実際冬也さんに裸を見られたのは、あの記憶に残ってない夜だけ。だから、せめてお湯に浸かる直前まではタオルで隠していたかったのに。
「恥ずかしいか?」
「……恥ずかしいです」
「まあ、あの夜以来そういうことしてないからな……」
後ろから抱きしめられて、冬也さんの素肌の熱さを背中に感じる。
「こうやって抱きしめてると、服が邪魔だって事がよく分かる……これからも体を隠すのは禁止だからな。綺麗なんだから、俺だけにはちゃんと見せろよ」
体の向きを変えられて、真正面から冬也さんに見つめられる。愛おしそうな目で頬を撫でられてから、近付いてくる顔に自然と目を閉じると、一瞬フッと笑う空気を感じてから唇に温もりを感じる。
「最近、陽菜がキスされるのを待ってる時の顔が好きな俺がいる」
「あ……だからさっき笑ったんですね? もうっ」
「そんなに怒るなよ。可愛いから好きなんだから。それより、体洗ってやるからこっち来い」
恥ずかしさでちょっと拗ねたままの私を椅子に座らせて、優しく体を洗ってくれる冬也さんは何だか楽しそう。
「風呂から上がったら、足のマッサージしてやるからな」
この前一緒に行ったパパママ教室で、妊婦は足が浮腫みやすいと聞いて以来、時間を見つけては足をマッサージしてくれるようになった。最近本当に上手になってて、マッサージ中に眠ることもあるぐらい気持ちいい。
「いつもありがとうございます」
「ん? 当然だろ。大事な陽菜の体だからな」
こんなに尽くされていいんだろうかってちょっと心配になるぐらい、私以上に私の事を大事にしてくれる。そんな冬也さんに、私はどれだけの愛情を返せてるのかな。
「私だって、冬也さんの事大好きだから大切なんです。だから、無理はしないでくださいね」
「……ああ。分かってる。無理はしてないから大丈夫だ」
嬉しそうな冬也さんからおでこにキスをされて、私からもお返しに頬にキスをする。私からもされると思ってなかったのか、一瞬ビックリした後破顔した冬也さんの表情は中々レアで、滅多にこんなに表情を崩すところは見られないから嬉しくなった。
「そろそろ中に入ろう」
「はい」
冬也さんに手を引かれて、温泉の中に浸かる。熱すぎない適温具合に、知らずに溜め息が出た。
「次にこんなにのんびり温泉に入れるのは何時だろうな」
「そうですねえ……しばらくは無理でしょうね」
満点の星空を見上げながら話をしていると、お腹の中から主張を感じ始める。
「あ、動いてる」
「本当か?」
すぐに冬也さんがお腹に手を当てると、分かっているかのように更に胎動を感じる。
「元気に動いてるな」
「ですね。温泉が気持ちいいのかな」
「もう少しだけ独り占めさせてくれな」
お腹に向かってそう呟いた後、お湯の中で抱きしめてくる優しい腕に、そのまま身を任せていた。
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