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そんな朝のやり取りを始めてから、数か月が経った。
「陽菜、おふくろの所に行くの昼過ぎでいいんだよな?」
「はい。お義母さんにも昼過ぎに行きますって言ってありますよ」
「じゃあ、寝てる間に連れて行くか」
冬也さんの目線の先には、布団の中で天井を見つめながら、時々声を出している私達の子供がいる。
出産してから3か月。予定日よりも1日早く産まれてきたのは、元気な男の子だった。産まれる時から親孝行なこの子は、冬也さんのお休みの日に私のお腹から出ることを選んでくれた。出来れば立ち合いたいと言っていたのを聞いていたのかもしれないなんて、既に親ばかを発揮して冬也さんに笑われてしまったのが、もうかなり前の事のように感じる。それぐらいこの3か月が濃くて、あっという間に過ぎて行った。
「そろそろお昼ご飯の時間ですね。何にしましょうか」
「チャーハンでいいなら俺が作るぞ」
「私は何でもいいですけど……作ってくれるんですか?」
「たまには作らないと、出来なくなりそうだからな。それに、そろそろお腹空いたって泣き始めるんじゃないか?」
時計を見ると、確かにそろそろおっぱいを欲しがりそうな時間になっている。
そこもちゃんと把握してるなんて、冬也さん凄いな。
「じゃあ、お昼ご飯は冬也さんにお任せします」
「ああ。欲しがるまでは、ソファーに座ってゆっくりしとけよ」
「はい」
子供が産まれてからも優しい所は変わらず、私がなるべく休めるように時間を作ってくれる。おむつを換えるのはもちろん、子供をベビーカーに乗せて散歩に行ってくれたりもするんだから、良き旦那様だけじゃなくてイクメンなのも間違いないんだと思う。
「陽菜、出来たぞ」
「はーい」
案の定泣き始めた息子に母乳を飲ませ終わると、ほぼ同時に冬也さんから声がかかった。
「美味しそう」
「まずまずな出来だな」
「十分上出来ですよ。いただきます」
ちゃんとパラパラに出来ているチャーハンのどこがまずまずなんだろう?と思いながら美味しく完食し、作ってもらったからと片付けは私がすることにした。
洗い物と後片付けが終わってリビングに戻ると、続き間の和室に寝かせている息子の隣で、気持ちよさそうに眠っている冬也さんがいた。
寝てる間に連れていくって言ってたから、寝かしつけてたのかな。それにしても……
「ふふっ……同じ格好で寝てる」
手の長さは違うけど、微妙に曲げられた両手を上に伸ばしている2人の姿はほぼ同じ。最初は私に似ていると言われていたけど、最近は冬也さんに似てきている気がするから、親子だなあってしみじみと感じる。
「そうだ。お義母さんに写メ送ってあげよう」
早速2人の姿を写真に撮って、少し遅れそうですというメッセージと共に送信すると、すぐに返信が来た。
「小さい頃の冬也にそっくり! やっぱり親子ね。こっちに来るのは冬也が起きてからでいいからね」
なんとなく、お義母さんがニコニコしながら写真を見ているのが伝わってくる。
「この写真待ち受けにしちゃお」
画面に映し出される大切な家族の姿に、自然と頬が弛む。
「本当、幸せだなあ……」
自分の結婚相手が冬也さんになることも、こんなに幸せな結婚生活になることも想像していなかったのに。
「……苦手な上司だなんて思っててごめんなさい。これからもずっと、よろしくお願いします」
眠る冬也さんに近付いて頬にキスをした後、横にくっついて寝転んでみる。大きくて温かい体にくっついていたらいつの間にか私まで眠っていて、息子が泣き始めるまでの間、親子3人で幸せなお昼寝タイムを過ごしていた。
===END===
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