2話

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お互いに服を着て、椅子に座って向かい合う。 課長は服を着ている間も終始無言で冷静な表情を崩さなくて、それを見ていると、なんだか釈然としないようなモヤモヤした気持ちが湧きあがった。 所詮課長にとって私なんて、焦る必要も無い相手ってことなんだろうけど、それにしても素面で人の下着姿見ておいて、何も反応しないとか逆に失礼じゃない……!? 朝からあまりにも衝撃を受けたせいか、心の中でよく分からない方向の悪態をついていると、課長がいつもの表情で口を開いた。 「昨夜の事だが……」 「――お互いに忘れましょう、課長」 上司の話の腰を折るなんて仕事中には基本やらないけど、今はプライベートな内容。それに、どうせ課長だって似たような事を言うつもりだったはず。 「――そうか」 そうか……? 予想していた答えと違う反応に、少しだけ引っ掛かりを覚える。 「あの……?」 「お前がそうしたいなら、昨夜の事はそれで構わない。全て忘れよう」 まるで、課長は忘れるつもりはなかったみたいにも聞こえるんだけど……まさかね。 「だが、これだけは言っておく」 「何でしょうか?」 「何かあったら必ず俺に言うように」 何かあったらって、どういう意味? 私の様子を見て意味を理解していないと感じ取ったのか、課長が少しだけ困ったような表情になった。本当に微かな変化だったけど、そんな変化すら初めて見た気がする。 「……昨夜の俺達は、避妊をしていない」 「えっ……」 衝撃の発言に、一瞬頭が真っ白になった。 避妊をしていない……つまり、妊娠する可能性がゼロではないという事。私は生理不順で周期が一定じゃないから、昨日が安全な日だったのかどうかなんて自分でも分からない。そもそも安全な日なんて無いと聞いたこともある。 「だから、もしもの時は必ず俺に言え」 「……もし妊娠していたら、どうするんですか……?」 「もちろん、その時は責任を取る。逃げるつもりはない。お前の事も子供の事も一生面倒を見る。だから、絶対に俺に言うように。分かったな」 「……はい」 つい昨日まで自分には縁が無かった妊娠という2文字。それが急に目の前に現れて、不安が押し寄せる。 もし、本当に妊娠してしまったら……子供にとって、こんなに不幸な事はない。だって私達の間に愛情はないし、お酒に酔って起こった一夜の過ちなんだから。
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