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3話
悪夢のような出張から戻って2か月が経った。
課長の様子は出張前と全く変わらず、あの日のことを本当に全て忘れ去ってしまったみたいに見える。でも私は、忘れようと思っても忘れる事が出来ないでいた。
「まだ来ない……」
デスクに置いてあるカレンダーを見て、自然と言葉が漏れた。
あの出張から生理が1度も来ていない。元々不順だし、仕事が忙しかったりストレスが溜まってたりすると、3か月飛んだりすることも無かったわけじゃない。だけど……避妊をしていなかったという事実が、私を不安にさせていた。
「やっぱり、調べてみた方がいいのかな……」
仕事終わりに寄ったドラッグストアの妊娠検査薬の前で、何度も手を伸ばしては引っ込める動作を繰り返す。
もしも本当に妊娠してたら……
「――まさかね。大丈夫、だよね……?」
ずっとこんな不安な状態が続くよりも、大丈夫だったって早く安心したい。もしかしたら、その不安のせいで生理が来ないのかもしれないし。
そう考えて、思い切って目の前の検査薬を手に取りレジへと向かった。
家に戻っていてもたってもいられず、すぐにトイレに駆け込んで説明書を読んだ後、早速検査薬を使う事にした。
結果が出るまでの時間、検査窓が見えないように裏向きにして、気持ちを落ち着けるように深呼吸を繰り返す。
「すー……はあー……よし。いざっ……!」
検査薬をひっくり返して、恐る恐る結果を見る。
「う……そ……」
説明書で確認していた、妊娠していると線が出るという部分。そこに、はっきりと青い線が出ている。
「何かの間違いでしょ……? あ、やり方間違ったのかな、私。そうだよね、きっと」
現実を受け止められなくて、もう1つ入っていた検査薬を試してみたけど、結果は何も変わらなかった。パッケージに書いてある99%以上正確という文字が、妊娠という事実を突き付けてくる。
「――どーすんの、これ……」
不安には思っていても、何処かで大丈夫だと信じていたのに……
しばらくの間、トイレの中で呆然と検査薬を眺める事しか出来なかった。
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