3話

1/3
4559人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ

3話

悪夢のような出張から戻って2か月が経った。 課長の様子は出張前と全く変わらず、あの日のことを本当に全て忘れ去ってしまったみたいに見える。でも私は、忘れようと思っても忘れる事が出来ないでいた。 「まだ来ない……」 デスクに置いてあるカレンダーを見て、自然と言葉が漏れた。 あの出張から生理が1度も来ていない。元々不順だし、仕事が忙しかったりストレスが溜まってたりすると、3か月飛んだりすることも無かったわけじゃない。だけど……避妊をしていなかったという事実が、私を不安にさせていた。 「やっぱり、調べてみた方がいいのかな……」 仕事終わりに寄ったドラッグストアの妊娠検査薬の前で、何度も手を伸ばしては引っ込める動作を繰り返す。 もしも本当に妊娠してたら…… 「――まさかね。大丈夫、だよね……?」 ずっとこんな不安な状態が続くよりも、大丈夫だったって早く安心したい。もしかしたら、その不安のせいで生理が来ないのかもしれないし。 そう考えて、思い切って目の前の検査薬を手に取りレジへと向かった。 家に戻っていてもたってもいられず、すぐにトイレに駆け込んで説明書を読んだ後、早速検査薬を使う事にした。 結果が出るまでの時間、検査窓が見えないように裏向きにして、気持ちを落ち着けるように深呼吸を繰り返す。 「すー……はあー……よし。いざっ……!」 検査薬をひっくり返して、恐る恐る結果を見る。 「う……そ……」 説明書で確認していた、妊娠していると線が出るという部分。そこに、はっきりと青い線が出ている。 「何かの間違いでしょ……? あ、やり方間違ったのかな、私。そうだよね、きっと」 現実を受け止められなくて、もう1つ入っていた検査薬を試してみたけど、結果は何も変わらなかった。パッケージに書いてある99%以上正確という文字が、妊娠という事実を突き付けてくる。 「――どーすんの、これ……」 不安には思っていても、何処かで大丈夫だと信じていたのに…… しばらくの間、トイレの中で呆然と検査薬を眺める事しか出来なかった。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!