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「――以前も君は同じミスをしていたな」 「……すみません」 シーンと静まり返ったフロア。そこに聞こえているのは、冷たい表情の山上課長の呆れた様な声と、震える女性社員の声。多分彼女は、もう半泣きになっているはず。 「あの時基本から再度説明したはずだが、理解出来ていなかったということだな」 「いえ、そういうわけでは……」 「だが現に、君はあの時と同じミスをしている」 「……」 黙り込んでしまったその子を見て、課長は大きな溜め息を吐いた。 「早急に直してきなさい。話はそれからだ」 「……はい」 その様子を固唾を飲んで見守っていた私は、小さく息を吐いて体から力を抜いた。 山上課長は理不尽なことこそ言わないけれど、容赦がないのと言い方が冷たいのとで部下から恐れられている存在。私も、課長の逃げ場を無くすような言い方を苦手に思う内の1人だ。 仕事は出来るし、出世も間違いない将来有望株で、見た目だって悪いわけじゃない。だけど、女子社員の間でよくある色めきだった話では一切名前が上がらず、浮いた噂の1つも聞いた事がない。 ……というか、プライベートが謎に包まれてるんだよなあ。 「新木、ちょっと来てくれ」 「は、はいっ」 急に自分が呼ばれたことに動揺して、声が上ずってしまった。何の用だろう。まさか、私も何かミスしてた……? 「何でしょうか」 「来週の出張だが、急遽俺も同行することになった」 「えっ」 「何か不都合でもあるのか?」 「いえ……とんでもないです。課長に同行してもらえるなら心強いです」 「そうか。要件はそれだけだ。出張までに資料を整理しておくように」 「はい」 席に戻って、バレないように大きな溜め息を吐く。 まさか課長と一緒に出張に行くことになるなんて……そんなの不都合しかないに決まってるじゃん。3日も課長と2人だけとか気しか使わないし、私の精神力抉れること間違いなし…… 苦手な上司との出張。それが、私の人生最大の波乱の幕開けになるなんて思ってもいなかった。
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