4.春休みの総合職員会議

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4.春休みの総合職員会議

…そして総合職員会議  今回の会議は職員室ではなくて、小会議室で行われた。議題は学年各クラスの編成で、学年ごとのクラスの担任と副担任がひとつの班となり、机を合わせてひとつのグループを作る。  全学年で6つのグループで話し合われることになる。クラス分けは、1年生は別として、それ以外は成績や普段の行動記録を見ながら同じ学年の担任同士で誰を入れ、又は出すとかといったことが話し合われることになる。  この先生ばかりの中に、一人だけポツンと生徒が混じっていた。アリスだった…。  学年ごとの話し合いが終わると、教頭のところに結果を持っていき、それで認めてもらえばそれでよし、ダメな場合はまた最初からの練り直しとなる。  今の教頭は自分の意見を通したいタイプの人なので、この総合職員会議は毎回荒れに荒れていた…。1年前のこの会議では教頭がなかなか首を縦に振らず、夜中の0時ごろまでかかったらしい…。  そういういきさつもあり、6年1組担任となった蘭 六花(あららぎ りっか)はかなり嫌な予感がしていた…。  教頭は、 「それでは各学年でクラス編成を始めて下さい」 と言ったあと、少し離れた所の椅子に足を組んで座った。  6年は、5年からの担任がそのまま上がるように決められているため、1組が蘭、2組が若手男性担任となっている。以前受験対策でPTAからの要望でそう決まったらしい。いつの時代もPTAは強い。  同席したアリスに、2組の若手担任は、 「岡野さんですね、私は2組の担任の渡辺と言います。クラス替えをしない方がいいという話は先日蘭先生からお聞きしましたが、そのことは1組全体の意思ということでよろしいですか?」 「はい、間違いありません。これが1組と2組全員の署名です」 と言って1冊のノートを手渡した。渡辺は、 「え?2組の署名もあるんですか?いつの間に…」 「友達を通じて事情を話し、2組の全員にも署名をもらいました」 「は…はは…。これはスゴイな…。蘭先生、もう話し合う余地なんてないと思うのですが…」 蘭はそう言われて、 「はい。それでは渡辺先生も「編成を変えなくていい」ということであれば、教頭にご報告しますね」 「あ、ハイ。お願いします…」  蘭は、編成書とアリスの持参したノートを携え、教頭の元に行き、 「教頭先生、1組、2組とも「編成を変えない」ことに決まりました」 と言って、書類とノートを提出した。  ざっと目を通した教頭は、 「認められんな」 と書類とノートを机に放り投げた…。 「え?」「なっ?」 蘭と渡辺は同時にそう言うと、教頭はさらに、 「そんな署名など一人ででも書けるだろ?偽造じゃないと誰が言えるんだ?」(このリスみたいなガキに踊らされおって…) アリスはそこで、 「教頭先生、「リスみたいなガキ」って誰の事ですか?」 と言った。  それを聞いた教頭は、慌てて両手で口を塞いだが、元々言葉としては出していない。アリスが教頭の考えを読みとっていたのだった。 「ち…違う!私はそんなこと言ってない!何かの間違いだ!」 と慌てて言い訳をしたが、実際そう思っていたので、口に出さなかったと言いきれないでいた教頭だった。  アリスは猫とは自由に会話ができ、動物の声も聴くことができる。最近それに加えて人間の思考も少し読むことができるようになってきていたのだった。  蘭が、 「教頭!その発言は大問題になりますよ?」 と言ったのを皮切りに、 渡辺が、 「これが教育委員会の耳にでも入ったら、即クビじゃないですか?」 と追い打ちをかけた。 教頭は、目をキョロキョロさせながら、 「わ…わかった。み…認める!編成を認めるから、このことは内密にしておいてくれ…。た…頼む!私もあと1年で定年なんだ…」 と、最後は泣きだしそうな顔になってしまった…。 蘭は、 「委員長、どうします?教育委員会に言いますか?」 アリスは、 「先生もういいよ。私が黙ってれば済むことでしょう?」 「そうね。ウフフフフ…」 6年生のクラス編成は、こうして終わった…。  校舎脇の桜並木の大木は満開で、小会議室に木洩れ日を落としていた…。    
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