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 女性ピアニストは、それだけで注目を集める。それも小さな子どもだったら。  曲芸師のようなピアニストにだけはすまい。音楽を深く理解し表現できる一流の芸術家を目指すように、自らの意思で求めるように。これがその一歩だ。  ヴィークは、プローベ(通し稽古)を終え、支度を終えた娘のクララを感慨深く見つめていた。  クララは、ピンクの裾の広がった薄桃色のドレス姿の自分を鏡に映してみる。長い黒髪を、楽屋がわりの一室で美容師に結い上げてもらった。大きな黒い瞳は、不安に揺れている。  ヴィークは娘の内気な性格を知り抜いていたから、小さな発表の場で経験を積ませてきた。家での毎週のサロン、友人知人の邸宅。しかし、主人や奥方が気分をほぐそうと声をかけるのだが、何しろ寡黙な少女で、うつむいてしまうのだった。  ひとたびピアノに向かってしまえば、別人のように生き生きとした。クララは、ピアノで語る子どもなのである。
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