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1827年9月の薄曇りの日。楽都として名高いライプツィヒにある、この大手の楽譜出版社の屋敷は熱気に満ちていた。演奏会場にクララ・ヴィークのデビューを見届けようと、百人を超える客が集まっていた。
クララの父ヴィークは、確かに名音楽教師だ。元妻も弟子のひとりで、この街だけでなく広く知られるピアニスト、歌手であった。職業音楽家を育て、今もたくさんの弟子を抱えている。看板でもあった妻が出て行ったように、娘もあの激しい性格の父の元でどのように育てられているのか、と案ずる声もあった。
グランドピアノの後ろに、楽団に属する職業音楽家たちがチューニングをしている。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、オーボエそしてホルンの奏者、総勢十一人。ヴァイオリン奏者のひとりが指揮を兼ねている。
広間に整然と並んだ椅子に客人たちは座り、始まりを待っていた。期待よりも懐疑が勝るざわめきだ。
「なぜ、変ホ長調のピアノ協奏曲『ジュナミ』なのかしらね」
「『ジュナミ』以外にもっとあるだろうに」
「まだ八歳にも届かない子どもが弾けるとは思えないが」
「子どもが難しい曲を弾くことに意味があるのさ」
「『神童』か? モーツアルトから何番煎じ? そういうのは飽きたよ。ヴィークもさすがにわかっているだろう」
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