ジュナミ

３

　いよいよ、手塩にかけた娘を披露するときだ。ヴィークは五歳からこの日まで、芸術家として世に出すために注力してきた。
　再婚を勧められてもずっと断ってきた。クララ以外にも男の子が三人いるので母親が必要だ。しかし、娘が成功を収めるまでは全て後回しにした。
　さっさと再婚した元妻をクララの前で貶めないのも、意欲を削がないためだ。

　ヴィークは、扉の前に立つクララの顔が蒼白になっていることに気が付いた。弓を取り換えにきたヴァイオリン奏者は、ソリストのはかなげな姿に不安を覚えた。
「クララ？」
　呼びかけられて、クララはハッと父親の顔を見た。雑念を払うように彼は娘の肩をポンと叩き、顎でしゃくって使用人に扉を開けさせた。
「さあ、時間だ」
　クララは口角をきゅっとあげ、ピアノに向かった。演奏者の幾人かは、ソリストの緊張ぶりに気が付いた。
　客たちは、拍手で小さなピアニストを迎えた。可愛らしい姿に感嘆する者もいる。クララの緊張はさらに増した。自分に集まる視線をさけるように目を伏せ、やっとぎこちなくお辞儀をした。