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「考えたことなかったな。でも、月も大きく輝いてるよ。」
「そうだけど、星のほうがいろんな意味あるでしょ? ほら、有名人になる時、スーパースターになるって、言うじゃない。」
「たしかにな。」
「フフン。天才でしょ?」
「そうかもね。」
「そこは、『そうだね』って、言ってよ。」
「アハハ。でも、もしギタリストで売れたら、名字は変えるよ。黒なんて、縁起悪そうな色だろ?」
「そんなことないよ。意味深でいい名前だと思うし。でも、そんなに気にしてるんなら、『大空』とかどう?」
「大きな空に大きく輝くか。まさしく星だな。」
「でしょでしょ。」
彼女は、自慢げに言い、いつもの明るい笑顔を振りかざした。
「あれっ・・・大空さん?」
「・・・あっ、えーっと。」
つい見入ってしまった。メッセージの続きを言おうとした時、京花がステージに上がり、割り込んできた。
「萌花!誕生日おめでとう!!」
「お、おめでとう!」
僕も一緒になって言った。司会は、戸惑い、渋々訊いた。
「あの・・・萌花さんというのは。」
「亡くなった私たちの親友です。おめでとう!!」
その後、京花は、運営スタッフという目立ってはいけない裏方であることを忘れていたので、上司たちから、こっぴどく叱られた。いつもと違い、遠くを見ていたり、挙動不審になっていたことから、僕も知人に心配された。
でも、観客の中に紛れて、萌花が笑っていたことは、変わりなかった。それだけで、誇らしいことだ。
⛩
1月頃、僕らは、もう一つの約束を果たした。
本堂を出て、僕らは涼しげな森林の道を歩いた。
「何年ぶりだろうね。ここへ来たの。」
「どのくらいだろうな。」
「・・・実を言うとさ、私、三人で来てから、まだ一度もここに来てないんだよね。」
「それを言うなら、僕もだよ。」
「・・・私たちって、似てるよね。」
「・・・そうかもね。」
「そういえば、マネージャー募集してるよね。私でよかったらするけど。」
「年末ライブの時みたいに、首ツッコまなければいいよ。」
「あれは悪かった。」
「フフッ。」
僕らは、いつもみたいに、他愛もない話をして笑い、歩いた。その姿は、中学時代と変わらない。まるで、二人の間に彼女がいるかのように。
【おわり】
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