4人が本棚に入れています
本棚に追加
七神と七人の邪斬り 『呪いの館』
七神と七人の邪斬り『呪いの館』
一.一日の始まり
「ふわぁ……」
俺は風監蕾渢。邪斬りの名家、風監家の最強邪斬りだ。
他の技でも圧倒的に強いと言われている。
「朝五時になりました。寮生の皆さんは起きて、七人の邪斬りの皆さんに技を教えてもらいましょう。」
七人の邪斬りとは俺らの事で、俺らが校生と寮生に教えることになっている。
まとめれば、俺らが授業を受け持っているのだ。
ここは邪斬育成高等学校、略して邪高の寮だ。
他の名家の最強邪斬り達もここに住んでいる。
「……らーふ……連れてって…………」
隣で寝ているのは咬間家の最強邪斬りの咬間流葉だ。
いつもゆるゆるふわふわで、ファンは俺と並ぶほどだ。
そして、「らーふ」と言うのは、俺の愛称だ。
元々流葉が言い始めたものだったが、だんだん他の五人も言い始めたのだ。
「流葉。起きろ。もう他の五人は技教えてるぞ。」
流葉は起きるのが遅いので、俺が起こして世話するといつも一時間が三十分くらいしか無くなってしまう。
「んー……起きるから待ってよぉ。」――
「遅い。また遅れたのはらーふじゃ無くて流葉だろ?早く蕾技と楓技のの寮生に教えろよ。」
結局三十分程かかり、焔技の天音家、最強の邪斬り、天音翼に怒られた。
「はーい。」
すると、
「警告!北口から瑞悪神が入りました!焔と蕾の校生、及び寮生は直ちに北口へ向かいなさい!」
すると後ろの寮生が動きだしそうだったので、
「止まれ!ここは俺と天音で行く。お前らは他の五人の邪斬りに教えて貰え。」
俺が言うと、
「らーふ。刀持ってるか?」
天音は既に刀を手にしていた。
俺は腰に付けていて、いつでも戦えるようにしていた。
「ああ。行こう!」――
二.蕾渢
「ビチャッ……」
俺らが北口へ行くと、自宅から登校した校生が悪神を倒そうとしていた。
「おい!早く校舎に入れ!じゃないとお前まで斬るぞ!」
天音が校生を脅している間に、
「蕾・神羅蕾」
『ビリッ―ビリビリ!!』
俺の刀と周りに蕾が渦巻き、
「ゴロゴロゴロッ!!!!」
蕾雲を生み出し――
『ドカーン!!!!!!!』
「ザシュッ」
蕾が瑞悪神を打つと同時に切り刻んだ。
「ザァァァッ!!!!」
「シュッ―――カチャッ」
瑞悪神は水になり流れ、俺は刀をしまう。
中から大勢の校生が見ていて、圧倒されていた。
「蕾渢様……さすが…………」
「さすがすぎる!!!」
中には、
「もう邪斬りとして戦っても良いのにねー。」
「けど学長の決定だもん。しょうがないよ。」
天音は、
「俺の出番なかったじゃん。ま、それは良い事だけどな。」
と言い、とっとと帰ってしまう。
「はぁ…いつもこう。」
俺も天音の後を追う――
三.授業
「お。帰って来たぁ!おかえりぃー!」
『ぎゅーっ』
俺が戻ると、流葉が抱きついて来た。
こいつは俺の事が好きらしい。
「流葉。離せ。」
すると、
『ぎゅーっっ』
さらに強く抱きしめて来た。
「離せって!」
すると、
『ビリビリッ!』
『バンバンッ!』
一斉に寮生がこちらを向く。
「えへへ!」
「はぁ……」
どうやら俺の蕾と流葉の楓の技がぶつかり合い、大きな音を出したらしい。
「流葉。らーふが嫌がってる。」
瑞技の守喜家、最強の守喜真哉が言った。
「朝六時になりました。朝食を食べ、教室で七人の邪斬りが来るまで待ちましょう。」
すると寮生が一斉に動き出した。
「じゃ、僕達もパパッと朝飯食べて、授業しに行きましょう。」
そう言ったのは珀技の珀神家、最強の珀神櫂真だ。
「はーい!」
「ああ。」
「うん。」――
「きゃー!!!!!!!みんな揃ってる!!!!!!!」
食堂に行くと、瞬く間に寮生と校生が集まって、通れなくなってしまった。
天音は、
「うぜぇ……ねぇ?いい?」
俺は仕方なく、
「いいよ。」
すると、
『ブオォォッ!!!!!!!』
天音は俺らの周りを焔で覆った。
「どけ。」
校生と寮生は七鬼の圧に負けたのか、すぐ両側に寄った。
ここの食堂は、自分で頼むシステムなので、流葉は、
「ん……。俺はぁ……、コッペパンとぉ、クラムチャウダーとぉ……唐揚げ十個!」
流葉がたくさん頼んでいたので、
「朝から食べすぎんなよ?」
と注意だけしていた。
「いっただっきまーす!!!!!!!」
すると流葉は、ものすごいスピードで食べ始めた。
「はぁ。流葉。もう少しゆっくり食べたらいいだろ。」
そう言ったのは、黑技の刻時家、最強の刻時竜真だ――
「ご馳走様でした!」
俺らが食べ終わる頃には、あたりに人がいなくなってきていた。
「じゃあ授業行くか。」
そう切り出したのは闇技の覇路家、最強の覇路僧だ。
「行くか。」――
「ガチャッ」
俺らが教室に行くと、全員が席に座っていた。
一時間目の教室は、大学の講義室風の教室だ。
「今日は焔と蕾の技のコツを教える。」
俺が言うと、
「七人の邪斬り達。学長室に来てくれ。」
俺らの後ろのスクリーンに写った学長に言われた。
俺はみんなに、
「悪いがみんな。自習しててくれ。」
そう言うと、
「はーい!」
「分かりましたー!」
次々と声が上がった。
「行くぞ。」
「うん。」
「はーい。」――
「コンコン 」
「失礼します。」
学長室は、校舎の最上階にあり、俺ら七人と学長に選ばれたものしか入れない。
「やぁ。授業中に悪いね。」
学長はフードを被り、顔が見えない。
「いえ。」
「今回呼び出したのは、悪神についてだ。」
全員が息を呑む。
「そして。どのような件でしょうか。」
俺が聞くと、
「海沿いにある神宝神社の森の中に、使われなくなった家があるんだが、そこにものすごく強い悪神が現れた。」
四.悪神
「ほう。随分面白そうだな。」
竜真が腕を組みながら言う。
「種類は不明だが、強いことは間違いない。初めてだが……」
俺はそこに、
「俺らに調査に向かって欲しい。と?」
学長は、
「さすが風監くん。僕の事をよく分かってるね。」
と言う。
「それは褒めてるんですか?なんかイラつくんですよね。」
『ビリッ…ビリビリ…………』
俺の頭上を蕾が渦巻く。
「褒めてるよ?僕はいつだって君の事を尊敬している。」
「余計な一言なんだよ。」
『バチバチッ!!!!!!!』
蕾が火花を纏い学長に向かって行く。
「おっと。風監くん。僕は学長だ。学長に向かってそんなことをしていいのかね?」
俺はもう呆れ、
「はあ。そんなことはどうでもいいですから。早く情報をください。捜査しに行くので。」
学長は、
「神宝神社の奥の森に、黒い屋根の古びた家があるから、そこの中に入って捜査してきてね。けど、まだ悪神は倒さないでね。状況を確認してから倒すから。隊長は、風監くんで。初めてだが、出来るよね。」
櫂真は、
「はい。学長の命令なら、なんでも。」
すると天音が、
「授業はほっときながら行ってきていいんですか?」
学長は思い出したように、
「そうだね……まあいいや。今は緊急事態でね。」
するとスクリーンに写したのは、隣の浜西高校だった。
「他校の生徒が肝試しやら何やらで入って、被害が出てるんだ。」
そして写ったのは、
「被害状況は魂を奪ったり、希望を吸い取ったりしてるんだ。」
魂が奪われた浜西高校の生徒だった。
「それができるのは蕾か珀の邪神だな。前線に立つのは対称的な闇と黑だね。」
真哉が言った。
「俺と僧か。」
竜真が僧と肩を組みながら言った。
「まあくれぐれも倒さないように。健闘を祈る。」――
「コツコツコツ……」
午前八時、俺らは海沿いの神社、神宝神社へやってきた。
「おはようございます。邪斬りの方々でしょうか?」
本殿の近くに行くと、巫女さんが出迎えてくれた。
「事情は聞いておりますので、ご案内致します。」
俺らは早速、二列で竜真と僧を先頭に、俺と流葉、後ろに天音と珀神、そして最後尾に真哉だ。
「肝試しにたくさんの人が来ていて、本当に困っていたので、助かりました。」
そんな話をしているうちに……
「着きました。」
俺らは寒気を覚える。
流葉は刀に手をかけていた。
「巫女さん。あなたは真哉と一緒にここで待っていてください。」
俺が言う。
「真哉。いいよな?」
「ああ。なにかあったら護ります。安心してください。」
すると、
「いる。」
流葉が言った。
いつもゆるゆるな流葉が、ピリピリとした空気を纏っていた。
その声を俺らは耳にしながらも巫女さんは、
「お願いします。」
その声は微かに震えていた。
流葉がいると言ったからだろう。
俺らは、
「行くか。僧。竜真。先行ってくれ。」
いよいよ、悪影響を及ぼす「呪いの館」の調査が始まる。
五.斬るな!
俺ら、真哉を除いた六人は、早速呪いの館に入る。
「ギィィッ……」
ドアは木製で、軋んでいた。
中は埃だらけで、まだ朝なのに全体的に暗いイメージだった。
「すいません。誰かいませんか。」
流葉が声を出すも、返事がない。
「まず、一階を探そう。そしてから二階、三階に行こう。」
俺がみんなに提案すると。
「ああ。それがいいな。」
竜真が言った。
みんなも頷いており、
「じゃ、各自それぞれ探し終わったら、玄関前集合。蕾か珀の悪神がいたら全員呼んで。」
みんなは、
「了解。」
俺は、リビングを探す。
「ガサゴソ」
部屋の隅に山積みにされていた段ボールの中を探すも、
「いないか……」――
「いなかったな。」
流葉がしょんぼり言う。
他のみんなもいなかったようだった。
「じゃ、二階行くか。パパッと終わらせて、授業しに行くぞ。」
「はーい!」
「うん。」
「分かりました。」
二階への階段は、一階の天井が高かったのでその分長くて横幅も大きい。
そして先程の通り竜真と僧を先頭に、階段を登っていく――
「いるな。三階の奥に。」
俺は悪神の気配を感じた。
「行くぞ!!!!!!!」
竜真が急いで駆けて行く所を俺らは追いかける。
「ガチャ」
ドアを開けると、
「ようこそ。僕の王国へ。」――
白い髪。
耳にピアス。
おでこには蕾の邪神という事を表す黄色と白の模様が描かれている。
全身袴姿の人体容の蕾悪神は、とても強い。
俺の感がそう告げている――
悪神には、妖怪容と人体容の二通りある。
妖怪容は、人間の形とはとても思えない形の悪神であり、人体容よりは弱くなる。
反対に人体容は、人の形をした悪神であり、妖怪容より強くなる。
「カチャッ」
「ハハッ!!これくらい、俺でも倒せるぜ。」
竜真が刀を出し、蕾悪神に向けていた。
「黑・刻籠廻!」
竜真の刀が銀色から黑色に変わると同時に思い出した。
「!」
『まだ悪神は倒さないでね。』
学長が言っていた事を!
「竜真!やめろ!倒すのはやめろ!」
一生懸命叫んだ。
「おらぁぁぁぁぁ!!!!!!」
竜真は体から黑の炎が出ていた。
「ふふ。」
『パチン』
「グハッ……」
「バキッバキバキッ!!!」
一瞬、俺は何が起きているのか分からなかった。
「僕の名前は蕾菊。よろしくね?」
蕾悪神――蕾菊が言った。
「え……?」
一旦状況の整理をしよう。
まず、竜真が蕾菊へ切りつけようとした。
けれど蕾菊が指を鳴らすと、一瞬にして竜真が壁を破り倒れた。
「どんだけ強いんですか……」
櫂真が呟く。
「おや?もう終わりかい?残念だねぇ……?」
俺は、
「最後に聞かせてくれ。」
蕾菊は、
「?いいよ。」
俺は攻撃が来ても良い様に構え、
「どうしてここにいる。」
俺が聞くと、
「それは教えられないな……」
『ザシュッ』
蕾が飛んでくるも、避ける。
隊長だった俺は、
「みんな!撤収だ!流葉は竜真を!」
「分かった。」
流葉は軽々しく竜真を持ち上げ、
「キュッ」
手すりに足を着き、
「バッ」
まるで楓の様に飛んだ。
「バリン!!」
ガラスを破り、
「ストッ」
綺麗に着地した。
俺らも同様、
「キュッ――バッ――ストッ――」
外へ出ると、
「竜真!」
「キャッ!」
真哉が竜真に駆けつけようとするも、
「真哉!」
天音が大きな声を出し、ビクッと立ち止まる。
「巫女さんを護るんだろ!自分の役目はちゃんとやれ!」
辺りが冷たくなる。
真哉は、
「……ごめん。」
流葉も、
「ごめんって言ってる暇あったら護れよ。自分の「役目」に責任を持て。」
「………………」
俺は、
「天音も流葉も言い過ぎ。そこは注意だけでいいよ。」
すると天音が俺の肩をガッと掴み、
「どうしてそんなに落ち着いてられんだよ。仲間が悪神にやられたんだぞ?」
流葉は無言で竜真の怪我を治療している。
巫女さんは目が泳いでいて、オドオドしていた。
「流葉。お前が終わったら帰って、学長に報告するから。そしたらみんなもう休め。疲れただろ。」
流葉は黙って治療する。
みんなは流葉の手捌きをまじまじと見ている――
「よし。これで大丈夫。」
竜真はまだ気を失っているが、流葉によるとこれで大丈夫らしい。
「さっきはごめん。俺、言い過ぎた。」
すると流葉が、真哉に謝った。
「俺もごめん。つい感情的になっちゃって。」
天音も謝る。
「いいよ。俺も心配になりすぎただし。」
こうして、三人の仲は更に深まった事でした――
六.喜び
「バフッ」
「はぁ……」
流葉がベッドに横たわり、魂が抜けた様に眠る。
午前12時。俺らは学長に報告した後、各自部屋に戻った。
「俺もちょっと寝るかな……」
ある事を考えている内に、夢の中へ入り込んだ――
「っ……」
ここは……?
「グッ……バタン…………」
流葉……?
手には流葉の緑色の刀が握られていた。
「どう?楽しいねぇ?」
前には……?
『さようなら』
「はっ!」
夢からパッと目が覚めると、流葉がいなかった。
時計を見ると、午後四時。
「予知夢じゃなければ良いんだけどな……」
さっきの夢は、間違いなく呪いの館だった。
隣には流葉がいたし、倒れた。
「ま、学長んとこ行くか……」
この時俺は、思いもしなかった。
あんな事になるとは――
「コンコン」
「失礼します。」
午後四時半、俺は学長室に来た。
「やぁ。風監くん。」
学長が出迎えてくれ、周りを見ると、
「らーふ。」
流葉が来ていた。
流葉の目はまだトロンとしていて、誰もが可愛いと言うだろう。
「この二人は…同じ要件で来た様子かな?」
すると学長が、頬杖を突きながら言った。
その表情はとても柔らかい様で透き通った、優しい微笑みだった。
俺らは顔を見合わせた。
「俺は…呪いの館について。」
俺が言うと流葉は、
「俺も。」
と少しだるそうに言った。
「そうか…」
俺は早めに終わらせたかったので、
「呪いの館の件は、二人で片付けます。」
学長は驚いた様な分かっていた様な、そんな顔をした。
「よろしく頼むよ。これから行ってくれるかい?」
流葉は俺に目で必死に、
「明日!明日でいいでしょ!」
と訴えかけていた。
「被害を最小限にしたいので、今から行きます。」
流葉はもう諦め、
「はーい。行ってきまーす。」
学長は、
「七人であれだったんだから、二人では心配だが…」
「大丈夫です。」
「……明日は休みでいいからね。気をつけて行ってらっしゃい!」
そして俺らは意を決して歩き出す――
「……相変わらず怖いな。」
俺が呟く。
「カチャン」
流葉の緑色の刀が照らされ、神秘的な光を放つ。
「行こ。らーふ。」
流葉は目を光らせ、呪いの館を見据えている。
「シュッ」
俺らが割った窓ガラスから入ると、
「くくっ。」
誰かの笑い声が聞こえた。
「流葉。」
「ああ。」
「カチャン―バッ」
俺らはジャンプをし、
「バキバキバキンッ!!!」
天井を破りながら蕾菊の所へ切りつける。
「シュッ」
切りつけたと思うと、
「おや?二人だけかい?」
俺たちに微笑む蕾菊が居た。
「もう仕方ない。流葉。準備出来てるか?」
「ああ。」
『蕾楓・神蕾楓破』
『ボワッ!』
俺と流葉の連携技で、周りに楓と蕾が渦巻く。
けれども、
「!」
「バタッ」
流葉が何故か倒れたのだ。
「くふふっ。」
蕾菊は気味悪い笑みを浮かべる。
「こんな所に来るからだよ。さあ!おしまいだ!」
もうだめだ。
なぜここに来たのだろう。
死ぬと分かっていたはず。
竜真であれなのだから。
「蕾・悪霊魈!」
待て。
「だめ」ではない。
まだチャンスはある。
学長がなぜ俺が来るのを分かっていた理由。
それは俺が強いから。
最強としてのプライド。
それを見抜いていた。
その期待に応えるために。
「竜真のために仇を打つ。」
『蕾・神蕾瞬』
「なぜ戦うんだい?もう終わりなはず。」
「俺はお前より強い。そう確信している。」
俺は刀を蕾菊に向ける。
「今更泣き言かい?まあいい。俺に倒される運命だからな!」
「シュッ」
蕾菊は蕾を纏い、
『バン!』
『ビリビリッ!』
技がぶつかり合う――
「グハッ……」
「バタッ」
蕾菊が倒れる。
「勝った……のか…?」
勝負は一瞬にして決まった。
蕾を纏った刀を見つめ、喜びを噛みしめる。
満月の夜、また一人の悪神が消えた。
最初のコメントを投稿しよう!