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そして今、私はそのアパートのベッドの下でひとり、カサカサと震えている。カーテンの隙間から入ってくるぼんやりとした明かりが、この暗闇唯一の明かりだ。
もし、願いが叶うなら今すぐにでも家族の元へ、あの家へ帰りたい。そうだ、昔お母さんが言っていた。満月の夜、月に向かってお願い事を三回すると、お月様が願い事を叶えてくれるんだそうだ。ベッドの下から這い出た私は、母や家族の姿を思い浮かべながら月に向かって唱える。
“家族に会わせてください”
“家族に会わせてください”
“家族に……”
心の中で三回目を唱えかけた所で、ガチャリという音が聞こえた。慌ててベッドの下に戻り、息を潜めて気配も消す。
パチンと電気が着いて、明るくなった部屋に入ってきた家主の顔を見て、息が止まった。死んでしまうかと思った。しかし、私の生命力は凄まじいのだ。それに、こんな絶好のチャンスを目の前にして死んでたまるか。
私が迷い込んだのは、あのレストランの、あの彼女の家だったのだから。
今すぐにでも飛び出しそうな気持ちをグッと抑えて、少し冷静になる。一日に二度も同じ目に遭ってはたまったものではない。先程までの願いは一旦置いておこう。満月の日なんてこれからいくらでもある。それより今、最優先される願いをベッドの下で願う。
“この子と話したい”
“この子と話したい”
“この子と話したい”
今回は三回しっかりと願いきった。しかし、少し待ってみても、変化は感じられない。堪えきれなくなった私は、思い切ってベッドの下から飛び出した。
目の前には彼女。リベンジは無事成功。
「え⁉うっわ!最悪!キッモ!」
作戦自体は大失敗。
話すまでもなかった。
彼女からの嫌悪感を伝える言葉と、それと共に飛んでくるリモコンやら本やらを避け、ベッドの下の奥の暗い方へと逃げた。
私は全てを悟った。
店主がいけなかったのではない、もちろん彼女がいけないのでもない。私が私であるから、私がこの姿であることがいけないのだ。この姿では何もできない。私の想いがいくら純粋でキレイなものだったとしても、この見た目では、人間の目の前に現れることすら許されないのだ。
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