Sky Smile Story

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関空の選考は、書類、筆記、一時面接、そして最終面接の4回。他の会社の3倍の時間をかけて仕上げた書類はもちろん通過していた。筆記試験からいよいよ舞台は関空。  筆記試験の前夜、部屋の電気を消し、江の島のキャンドルナイトイベントで買ったアロマキャンドルを灯す。微かなあたたかみのある光と、エキゾチックなフレーバーの中、抑え目のボリュームで音楽を流しながら禅を組む。関空の「前夜祭」イメージソングに決めているFaye Wongの「夢中人」。  ぼんやり生きていれば音楽は、ただのいい歌だなで終わる。しかし、人生の大事な瞬間で聴いていた曲は特別な意味を持つ。部活の大会の前、受験前。いつも音楽から力をもらってきた。歌詞に自分を重ね、何度も何度も奮い立たせてきた。この曲を聴いて、もしそれで負ければ、もしもふがいない戦いをしたら大事な瞬間に力をくれたアーティストを汚すことになる。この歌を聴いて恥ずかしくない自分でいよう。そういって自分を追いこんできた。  さあ集中しよう。もう余計なことは考えなくていい。明日だけは自分のために戦おう。そのためにやってきたんだ。明日はあの関空に出会うんだ。    集中していたつもりが、昨夜はよく眠れなかった。昔から「繊細で、物事を深く考える性格」と評されてきたように思う。自分の性格、自分の病気、間違った育ち方・・・。何度振り払っても頭から離れない。無理もない、今まで20社以上面接で落とされてきた。学歴OK、筆記試験OK、TOEICスコアも780点まで上げた。中国語検定も取った。総合旅行業務取扱管理者資格も取った。スーツも靴も決して安物じゃない、ネクタイの色、シャツの色との相性にも注意している。もちろんネクタイの結び方も間違っていない。髪も染めていないし長くもない。姿勢もお辞儀の角度も鏡を見て練習した。それでダメなら、何か自分の中に欠陥があるのではないかって思いたくなる。  それでも、今日は就活じゃないのだから、勝負なのだからと自分を奮い立たせる。 京橋から快速列車で関空へ、この瞬間から他の会社の時とは全然違う。そう、ぐっとくるものがある。空港へ連絡する電車なので、車内放送も二ヶ国語。それを聞いているだけでも、なぜだか涙が出そうになる。理由なんてどうでもいい、それが関空だから、関空が好きだから、それだけで十分だ。大阪の都心を離れて40分ほど過ぎると、前方に高い建造物が見えてくる。空港の対岸に聳えるゲートタワーホテル、あの横を過ぎたら進路を右に、海の方へレールが続く。徐々に高架が高くなり加速していく。湾岸エリアと関空島を結ぶスカイゲートブリッジへ入ればそこは煌く海の上、橋に入るこの瞬間がたまらなく好きだ。心地よく加速し、一気に海の上へ踊り出る。点のようにしか見えなかった空港が徐々に大きくなる。ウィング、ターミナルビル、展望タワー、空港ホテル、国内貨物エリアに国際貨物エリア、オイルタンカーバース・・・、その一つ一つが世界をつなぐ夢にあふれて見える。ここからどこへでも飛んで行ける、まだ見ぬ世界へ。思いがあふれて止まらない。  ランウェイにはスイスインターナショナルのA340-300が見える。この機体があと十時間後には遥か雄大なアルプスさえ眼下に見下ろし、銀色に輝く翼は湖畔に映えるジュネーヴの街に舞い降りていくのだろう。そのフライトは人間が長い歳月をかけて世界中で築いてきた文化や、この星のたくさんの奇蹟との邂逅が育んできた壮大な自然をはるかな道のりを越えて結んでくれる。そんな光景を心に描くと、自分が抱え込んだ悩みがあまりに狭く、みみっちいものに思えてきた。  電車を降りるとまだ試験まではかなり時間がある。当たり前だ、この2本後の電車で来ても間に合うくらいだから。まっすぐ試験会場になっているターミナル隣の関空本社ビルには行かず、しばらくホームに立って人の流れを眺める。これから飛び立つ人、長い旅を終えて大きな荷物と家路に着く人・・・、様々な物語がこの場所で始まり、つながっていく。しばらくそうして佇み、ターミナルビルへ。歩きながらこの感覚はなんだろうと考える。・・・あぁ、そうだ。卒業式で壇上にむかう足取りと似ているなぁ、と気づく。胸を張って、誇りを持って、これから強く生きるんだ、って。この一歩一歩が未来につながるんだと踏みしめる。ターミナルの自動ドアの前で立ち止まり一礼する。何も格好つけているわけじゃない。そうでもしないと気が済まないだけだ。一通りターミナルの喧騒を味わい、到着ロビーの椅子に座って栄養ドリンクを飲む。友人がいつも試験の30分前に栄養ドリンクを飲むと調子がいいって言っていた。その時は何もそこまでしなくても、と笑っていたけど。今となってはそれも必要になってきた。最近はあんまり食事ものどを通らなくなってきたし。最後にトイレに入る。周りに誰もいないことを確かめ、鏡の前で自分に向かってエールをかける。 「今まで何のために生きてきた?今日ここに来るためだろ!勝ちにいこう。必ず勝とう。しゃあああ、行くぞ!」スカイクリスタル以来、いやそれ以上の最高最強の気合い。    二時間の筆記試験が終わった。まあなんとかなっている。最後まで集中力を途切れることなくいけた。またきっと戻ってくる。そう決めて空港島を離れる。疲れがどっと押し寄せてくる。もともと心身ともにあまりいいコンディションとはいえなかった。それでも関空への思いでハイになっていたし、試験後どうなってもいいという気持ちでやった。その結果、堺を過ぎたあたりで電車に酔ってきた。京都から東京までバスで往復しても何ともなかったのに、たかが40分の快速電車で酔うなんて。とてもまっすぐ京都まで辿りつけそうにない。京橋で降りてきからしばらく歩いてみるが、付近の飲食店から出てくる匂いでまた気分が悪くなる。今日は集中力とか気合いとか、そんなものを全部限界ギリギリまで上げたつもりだった。その結果がこうだ。それでもいい。苦しくてもよく戦ったと思う。それでいいんだ。勝てばいい。そうしたら全て報われる。    三日後、筆記試験の合格通知と次回面接の案内が郵送で届く。何度も何度も読み返す。よかった、まだ繋がっている、またあの橋を渡れる。またあの場所に立てる、そう、あの夢の舞台で戦えるんだ。    その日、別の会社2社に落ちたことが分かった。関空が残っているからいいとはいえ、不安は募る。何がダメなのか。見た目、表情、話し方、マナー、それともやはり性格。自分の何かが人を不快にさせている、そして自分はそれに気づけていない。  関空の面接を5日後に控えたその日は、ある海運会社の面接があった。ちょうどいい、関空前の調整も兼ねてがんばってみよう、と奮い立たせいつものように大阪に向かう。  いつも通りのコース、大阪のビジネス街もほとんど地図なしで歩けるようになった。あたたかい四月下旬、快晴。白い高層ビルに陽光が強く射してははね返り、道路を埋める車のボディーがまばゆく光る。いつもの街の風景。いや、何かが違うことに気づく。なんだかいつもより風景が暗く見えるのは何故だろう。なにか黒いフィルターごしに見ているような。変だ。そういえば自分の足取りが少しだけ重い。連戦連敗の疲労の影響だろうか。これくらいのスケジュールでそんなことは言っていられない。周りには一日に二、三社、毎日回り続けている友人もたくさんいる。こんなところで力を失くすなんて許されない。またいつもと同じだ。エリートに見えて実は何もできない弱い人間、所詮テストの解答用紙の上でしか強さを証明できない人間になってしまう。前を向こう。勝ちにいこう。何度も何度も心の中で繰り返す。  西梅田にあるオフィス、ここに来るのは今日で三回目。説明会&筆記試験、一次面接、そして今日の二次面接。この面接を通過すれば次はおそらく最終面接、ゴールが見えてくる。控え室に入ると他の学生は2人だけ。前回たくさんの学生でごった返していたのとは大違い。だいぶ絞られてきたようだ。ここまで残ったことに少しだけ自信が出てきた。  ほどなく面接会場に通される。個人面接、相手は2人、おそらく中堅社員。  「それじゃあ自己PRを一分で・・・」  もう何度となく繰り返してきた一分バージョン。  「はい、わ、私のと、特徴としましては・・・・・・あの・・・、まず物事に対する情熱をつ、常に持っており・・・・・・、あの・・・・・・、例えば・・・」  言葉が続かない。なぜだろう?就活ノートに書いて、いつも移動中に繰り返し見ていて、暗誦もできるほどの自己PRなのに。なぜ?前の面接では普通に言えたのに。なぜだろう?家で練習したら十回に九回は58秒でぴったり合わせられたのに。言葉が震える。  面接官が「どうしてこんなのが一次面接通ったの?」というような顔をしているのが分かる。  「大丈夫ですか?次の質問にいきましょうか。」  落ちつけ。まだ最初の質問だ。そうだ、ここは落ちてもいいから、せめて明日につながるプレーを。  「あなたの性格のよいところはなんですか?」  「わ、私には自分と全くちがう個性をもった友人がたくさんいます。・・・私は自分にないものを持っている人に対して、ねたんだり否定したりするのではなく、そこから学び、様々な個性を楽しむ心を持っています・・・。そのためには・・・」  大丈夫、少し落ちついてきた。まだいける。諦めるな。  「では次にあなたの性格の欠点はどこだと思いますか?」  「い、言い出したら聞かないところです。」  言葉を発してしまってから焦る。違う。そんなのシナリオに入ってない。自分の欠点を聞かれたときのマニュアルは、 ①あまりにひどい欠点は言わない ②その会社での仕事にさほど影響しない欠点を言う(例えば営業職で「人見知りです」なんて言わない) ③必ず欠点の改善策などを添えて、克服に努力している謙虚な姿勢をアピールする。  熟知して回答を用意していたはずなのに、これはいくらなんでもひどすぎる。  「例えばどういうことですか?」  「例えば・・・・・・あの、自分がやると決めたら、反対されてもゆずらなくて・・・・・・、あの・・・・・・・やり通してしまって・・・それで・・・」  もう無茶苦茶だった。    きっと疲れているんだ。それで咄嗟に頭の中にあったことが出てしまったんだ。帰りの電車の中、あまりにひどい今日の面接を振り返る。決して難しい質問はなかった。どれも1回以上答えたことがあるし、ノートに答えを書き出している質問だった。それなのにあの時、自分の欠点を聞かれたら。まるで自らを罰し、懺悔するかのように吐露してしまった。まるで自分の思いだけでこの会社を受けていることが罪であるかのように。あんな言い方をすれば終わってしまうことは分かり切っていた。それでもあの瞬間、なぜかそんなことは考えられなかった。あふれだす自分への叱責が言葉になったかのようだった。    それでも歩みは止められない。翌日は例の信託銀行のOBに会う日だった。「社会人の先輩として、就活のお役にたてれば、是非一度当行に来てほしい、選考とか堅苦しいことは考えないでいろいろお話がしたい・・・」そんなことを言ってきた。是非来てほしいというからには悪いようにはしないだろう、  電話で指示された通り、なんば駅からすぐの。店舗が入っているビルの裏の方回ると一人の男性社員が待っていた。裏口から中に通され、二階に上がる。かなり広い部屋に案内される。中には机と椅子が六ヶ所にセットされていて、そこのいくつかで社員と学生が話している。通りすぎながら、妙に学生の顔が青ざめているような気がした。 空いている席に案内される。やがて背の高い冷ややかな顔をした三十代前半とおぼしき男性が現れた。完全に面接ムード。あの電話はただ呼び出すこと目的だったのか。状況が違うかもしれないと思った時は手遅れだった。  話が始まったが、完全に面接だった。電話の流れからか、さすがに志望動機は聞いてこないが、大学での生活とか現在までの就活の状況について質問される。とりあえずあたりさわりのない解答でやり過ごす。  最初から妙に雰囲気が悪いと思っていた。学生時代に力を入れたこと、今までの失敗談。答えるたびに否定的なことを言われた。  そして、今までの就職活動の状況、受けた業界や内定の状況に質問が及んだ。  「え、まだ内定一つもないの?それは問題なんじゃない?自分のどこに問題があると思っているの?」  「は、はい。今までは自分の憧れというか好きという気持ちが先行して、受ける会社を選んでいましたので、もっと視野を広げて・・・」  「いや、そんなこと聞いていないから。受からないんだよね。自分のどこに問題があると思っているの?」  「そうですね。面接での話し方というか。」  「いやいやいや、違うでしょ。表面的なことだけで何も自分のこと分かっていないんじゃない?学歴だけで受かると思っている?実は思っているでしょ?だから何も考えずにのこのこやってきて、呼ばれたから来ましたけど何か?ってふざけた態度してるんだよね。完全に就活なめてるよね。」  「いえ、そんなに甘いものだとは思っていなくて・・・」  「じゃあ何?何が問題なの?なんで内定ないの?」  「た、たしかに、コミュニケーション能力という点で課題があると思っていまして、そこを直そうかと。」  「じゃあ見せてよ、コミュニケーション能力。直したんでしょ。」  「いや、その急にコミュニケーション能力と言われましても。」  「見せて。さあ見せてよ。どこにも受からなくていいの。」  「いや、ですからそれはやり取りの中で・・・」  「見せてください。ないの?まずいよ。どこも受からないよ。」  「ですからそこは、いろいろな方のアドバイスを聞きながら、自分の課題を解決しながら・・・」  「そんなことは聞いていません。」  会話にならなかった。話そうとするたびに遮られ、罵倒される状況に心が完全に折れていく。あぁ、これが噂にきく圧迫面接というやつか。フリーズした頭の中でぼんやりと考える。そうか、たしか銀行とかでこういうのが多いんだ。 「圧迫面接はあなたのストレス耐性を見るものです。会社に入れば顧客や取引先にひどいことを言われる場面もあります。そういう時でも社会人として、場の空気を壊さず、うまく切りぬける能力が大事になってきます。ですから面接できついことを言われても落ちついて、うまく批判をかわし・・・」 そんなことが書いてあった。あまりにひどい面接で女子学生が号泣したとか、いきなり机を蹴られたとか。そんな記事を見て大げさな話だと思っていたけど、あながち作り話ではないのだろう。  耐えがたい時間は30分ほど続いた。後半は一方的に叱責されるだけで気がついたら、面接は一方的に終わっていた。 帰り際になると、なぜかその男性は突然紳士になっていた。  「今日はお忙しい中どうもありがとうございました。結果は2日以内に電話またはメールで連絡いたします。」ドアの前で深々と礼をして送り出された。  結果?いったい何を言っているのだろう。  駅までどうやって歩いてきたかあまり記憶がない。頭の中でさっきの言葉がリフレインされる。  「どこも受からないよ。」  電車に乗ったあたりから、ようやく怒りがこみあげてきた。  あぁ、嫌だ嫌だ。自分は誠実にやっているつもりだ。誰かを傷つけようともしていない。それなのに、なにか言葉にするたびに、なんでこんなに叩かれなければならないんだ。コミュニケーション能力?こんなに人を傷つけておいて、自分にはコミュニケーション能力があるとでも言いたいのか。それはただ、潰したところで自分に被害がない人間と、そうではない人間の選別ができるというだけだろ。お前は自分に直接関わりのない、がんばっている人間を、徹底的に叩いてストレス発散しているだけじゃないか。きっとSNSでも使って安全な場所から、知らない誰かを叩いて正義感にのぼせあがっているんだろ。そう、力と数の論理だけで、たいして根拠もない「正しさ」を振りかざし、狂ったように弱者を攻撃する。時にはそれが社会的にではなく、真の意味で誰かを抹殺する可能性があるということは考えない。なぜなら自分は痛くもかゆくもないから、そんな想像力を持つ必要すら感じない。大事なことは、決して叩かれる側に行ってはいけないということ。そのためには見ず知らずの誰かの苦しみなど関係ない。そう思っているに違いない。なんでそんな奴が社会の上でのうのうと生きているんだ。  もう嫌だ。ばかばかしい。ふと電車の窓に映った自分の顔が、恐ろしい表情をしていることに気づき、ビクッとする。叩きのめされ、熱を失ったゾンビの抜け殻のようなような顔だった。今までこんな顔をしていた自分がいただろうか。  ふと気がつくと、隣に同じスーツ姿の男性が立っていた。  こちらを窺っていたらしい。目が合うとおもむろに近づいて話しかけてきた。  「いやぁ、さっきのやっぱり激しかったですねぇ。」  思い出したくもないさっきの面接のことか。その時にこの学生がいただろうか。個人面接なので記憶に残ってはいない。  「まあ、ここは圧迫やってくることが分かっていますからね。どうでもいいんですけどねぇ。ところで次の選考へ必ず進む方法あるの知っています?」  話す気になれず黙っていると、彼は慌てたようにつけたした。  「あ、僕はもう別の銀行に内定持っていてそっちにいくんでいいんですよ。ここは圧迫の噂がどれほどのものかちょっと体験しにきただけなんで。」  そんな噂は全く調べていなかった。自分が準備不足だと言われればそれまでなのかもしれない。  「このあと、先方に電話かメールするんですよ。『先ほどは率直に話して頂いてすごく勉強になりました。自分がいかに甘かったか痛感しました。もっとお話を聞かせて頂きたいです。』みたいな感じでね。そうすればよほどのことがない限り次に行けますよ。あとは筆記と個人面接。うちの大学の就活塾でそう言われているので間違いないと思いますよ」  そもそも全く採用する気ない相手にいちいちマウントしかけませんよ。そんなことしてたら評判悪くなっちゃう。呼ばれているのは関関同立以上。とにかくここで言われたこと真に受けて、プライド傷つけられたとか自分の思いがとか眠たいこと言い出したら負け。そういうシステムなんですよ。おとなしく頭下げてたらそれで通過なんですよ。」  真に受けなくてもいいと言われて忘れられるものでもなかった。ぼんやりと彼がしゃべる内容が頭の表面を流れていくのを感じていた。彼がどうやって去っていったかもはっきり覚えていない。  もちろん電話もメールもしなかった翌日、その信託銀行からメールが届いた。次回選考の案内が添付されていた。茫然とする。結局、あれは全て茶番だったのか。しばらく昨日の状況を振り返ってみる。「結局は学歴でなんとかなると思っているんでしょ?就活なめてるよね?」という言葉が頭に響いた。次の瞬間、メールごと「削除」をクリックした。たとえ望まれてもあんな会社に二度と足を踏み入れたくはなかった。そうだ、たとえ受かったとしても、この崇高な戦いにふさわしくない。  もしも受かれば十分に勝ち組だ。分かっている。これが就活なのだろう。何食わぬ顔でまたあそこに出向き、かわいげを見せればそれで社会人へのイニシエーションはOK。おぉ、そうかそうかと相手もいい気分になって選考が進む。そういうシステムだ。そう、分かっている。分かってはいるが自分の中の何かが違うと叫んでいた。  残りの会社は、確実に消えていく。だが、そんな不安に飲み込まれるわけにはいかない。これも全てプレリュードに過ぎなかったと、最後にそう言えればいいじゃないか。  「切り替えよう」何回も何十回も自分に念じてきた言葉。
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