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Prolog
俺は昔から花が好きだった。
薄汚れた環境の中にいても、汚い人間の思惑や
悪意に揉まれても、花だけは。
花だけは相も変わらず綺麗なままだった。
特に好きな花は椿。儚く美しい、紅色の花。
あの女は、まさに“椿”のような女だった。
衣も身体も薄汚れてはいるものの、
黒く艶やかな長髪と形の良い唇が美しい。
だがそれよりも、女の両の瞳だ。
闇夜の如き深く黒い瞳が、俺の心を奪った。
これが、俗に言う『恋』なのだと直感した。
だが、残酷にもそう首尾よくはいかない。
なんといっても場所と立場が悪い。
昔俺を置いて、どこぞの女に婿入りした、
兄のようにはいかない。
俺も、そして女も、罪人だからである。
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