Prolog

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

Prolog

俺は昔から花が好きだった。 薄汚れた環境の中にいても、汚い人間の思惑や 悪意に揉まれても、花だけは。 花だけは相も変わらず綺麗なままだった。 特に好きな花は椿。儚く美しい、紅色の花。 あの女は、まさに“椿”のような女だった。 衣も身体も薄汚れてはいるものの、 黒く艶やかな長髪と形の良い唇が美しい。 だがそれよりも、女の両の瞳だ。 闇夜の如き深く黒い瞳が、俺の心を奪った。 これが、俗に言う『恋』なのだと直感した。 だが、残酷にもそう首尾よくはいかない。 なんといっても場所と立場が悪い。 昔俺を置いて、どこぞの女に婿入りした、 兄のようにはいかない。 俺も、そして女も、罪人だからである。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!