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6月のどんよりとした天気の中、低い山に囲まれた集落を目指して、4人の男は車を二台走らせていた。前方を加賀が和泉の案内に従って進み、後方からは森谷が付いて行きその助手席で佐藤はうたた寝をしていた。
高速を降りて国道に入り、大きな山をいくつか越える。再び広い国道に出ると、遠くに民家がちらほらと見え始める。国道沿いのスーパーを通り過ぎて、ガソリンスタンドの横の道に入る。綺麗に舗装された道路が終わり、砂利が目立つ細い道へ誘われていく。やがて小さな橋を渡り、背の高い針葉樹に囲まれた石段が続く神社が見えてくる。民家の間を抜けて、細くて急な坂を上る。途中には大きな銀杏の木が独特な存在感で鎮座していた。どんどんと急になっていく坂をのろのろと上る。
集落が少し見下ろせる辺りまで来たところで、和泉はこの先だと言った。車一台分の細さの坂の先に、今回の目的地はあった。小さな畑がついた平屋がひっそりとたたずんでいる。先ほどまで通っていた県道が小さく見えた。
加賀は興味深げに柵のない畑の先に立ってみた。彼は折り合いの悪かった会社を辞職し、心身ともに疲労を重ねていたところに和泉から声を掛けられたのだった。曰く、「田舎に引っ越す、ついてこい」と。少ない荷物をまとめ、加賀は急ぎ足で和泉の新居地へ着いてきたのだ。
加賀、和泉、森谷、佐藤の4人は高校の同級生で、かれこれ10年程度の付き合いになる。小説家の和泉は安い田舎の賃貸を見つけ、息抜きを兼ねて転居を決意した。加賀はしばらくの間、荷解きと家事をすることを条件に居候させてもらうことになっている。森谷と佐藤は荷物を運ぶ要員として呼ばれていた。
こうした経緯で始まった田舎暮らしに、しがらみから逃避してきた加賀は休息を求めるのであった。
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