3人が本棚に入れています
本棚に追加
「来週、佐藤君が来るそうだよ」
麦茶とせんべいで3時のおやつを楽しんでいた時、思い出したように和泉は言った。加賀はこの間来た時はダルそうだった佐藤が、わざわざ片道2時間かけてやってくることに首を傾げる。
「何をしに来るんだろうか」
「さてな、一泊させてくれとしか言っていなかった」
何はともあれ、そろそろ人が恋しくなってきていた加賀は佐藤の来訪を待ち遠しく思った。そして日課の散歩に連れまわす計画を立てる。その様子をいつの間にか煙草をくわえていた和泉は呆れたように観察して、手元を見るとふと呟く。
「禁煙するべきだろうか」
「ここで和泉に文句を言うやつなどいない」
分かり切ったことを確認するように質問するのは和泉の癖だった。和泉は人を選ぶ性格をしているが、それは自尊心によるものに見えて、本当は自らが傷を負わないための虚勢のようなものなのだ。
「好きにしたら良い。好きにして良いんだ」
半分くらいは口の中で消化した言葉に、和泉は「そうか」と頷いた。やがて目を細めて吸い込んだ煙を、満足げに吐き出したのだった。
加賀が新しく麦茶をグラスに注いでやると、和泉は礼を述べて立ち上がり「ノルマは達成すべきだろう」と言って自室に引っ込んでいった。時間を持て余した加賀は、縁側に移動して横になると自然に瞼が降りてくるのを待った。微かに残留した煙草の香りと、川のせせらぎが眠気を運んでくる。
狭まった視界の端に小さな子供の影を見たような気がしたが、それはきっと夢の始まりなのだろうと、加賀は気に留めることもなかった。
最初のコメントを投稿しよう!