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「も、もしもし?」
「はい。毒島です、あ、俺も一応自己紹介しておきます?」
「えっと、はい、ぜひ」
「分かりました。俺は毒島武龍です、趣味のギターでひっそり弾き語りしてます。よろしくね、冴島さん」
耳元から聞こえてくる彼の声、動画で聞いている声と同じだった。ドキドキしてしまう。何を話せばいいのか、分からなくなってしまう。
「これカップルアプリですよね、それならそれっぽくしてみます? なんて。気持ち悪いですね、すみません」
「そ、そんな事ないです! えっとあの、私本当にTaKeRuのファンで……ちょっと戸惑ってるだけって言うか……気を悪くさせてますよね、すみません」
聞きたいことや話したいことがたくさんあったはずなのに。
「……謝らないでよ瑞希」
「……っ!! ぶ……た、タケル……さん」
「俺は嬉しいよ。こうやって瑞希から連絡取りたいって思ってくれた事。俺の話、少し聴いてくれる?」
「うん、聴く。聴きたい、聴かせて?」
私の少し食い気味な返事にタケルは電話の向こうで笑ったような声を出した。
タケルは静かに話し始めた。動画で聴く声とは違う、私に向けられた声……。
「俺ね、昔から何だけど。名前がぶすじまだから、ブスブスって言われてさ。ニキビとか多くて肌は結構汚くてそれでからかわれてたんだよね。小学中学高校、友達なんて居なかったし好きな人も出来たことなかった。勉強は割と出来てたけど、褒められたことはない。俺には兄貴が居て兄貴がハーバード大学行くぐらい頭良かったから期待されてなかったんだと思う」
その声は淡々としている。でもどこか優しくて懐かしむような声……。彼は続けた。
「大学に行かせては貰えたから法学部に入って弁護士になろうと思ったけど、国家試験の前日に俺は事故に遭ってさ、酷い怪我だった。右腕と左足骨折、頭部外傷、顔面損傷、一週間ぐらい昏睡状態だったみたいで、目が覚めた時自分の顔を見て絶望した。生きていけないって思ったんだ。でも父親がさ、言うんだよ。整形すればいいって。その金は出すって。大事な息子に怪我を負わせた運転手から踏んだくるって、その言葉嬉しかったから……整形はしなかった」
そう言ったあと、突然ビデオに切り替わって私はドキッとなる。映ってるのは彼の部屋らしい。
「俺ね、皮膚の移植手術を受けただけなんだ。だから醜いのは変わらない。暫く外にも出られなくて部屋に閉じこもって、父親が趣味でしてたギター教えて貰って弾いたりしてたんだ。それで弾き語りするようになって、楽しくて、一度だけ動画をあげた。顔を出して。その時すごいコメントが来てさ。全部、気持ち悪いとか、顔出すなとか、全部誹謗中傷だった。分かってたことだから傷付きはしなかったけど、その中に一人だけ居たんだ……」
私は彼の話す思い出を聴きながら鮮明に蘇る記憶があった。
あれは多分5年ぐらい前……。確かに誹謗中傷が多かった。鼻の形は少し変形していて、両目の位置が少しだけズレてた……。でもそんな彼の歌はすごく突き刺さって……。
「俺の歌を褒めてくれた人が居たんだ。すごく素敵な声ですねって、ファンになりましたって。あなたの歌をもっと聴きたいって。でも通報とかされたくないし、その時はその一度きりで動画を消した。その後俺は上手くなるために練習して維持費を稼ぐために今の会社に入ろうと決めた。だから整形したんだ、前の顔に戻す手術……先生の腕が良くてさ、元に戻ったよ。でも誹謗中傷が怖くて会社じゃもっさりしてるんだけどね?」
そう言って画面に映る彼は、伸びた髪を後ろに束ねてはにかむような笑いを浮かべていた。私には一目見て分かった。あの時私が見た動画の彼と同じだって、同じ声で顔も……。
「私、知ってる……あの動画見たの。すごく素敵な声で……本当に優しい声だなって思ったの」
「……あのコメントの名前、カタカナでミズキだった。君だったんだね……瑞希」
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