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画面に映る顔は本当に素敵な男性だった。世の中で言えばもしかしたら普通だと言われるのかもしれない。でも私には心がときめくほど、本当に素敵な男性に見えた。
「タケルって、名前どう書くの?」
「武士の武に難しい方の龍で、武龍だよ。名前負けしてるけど……」
「そんな事ない! すごく素敵な人だと思う。私は好きだよ? 声も貴方の顔も好き!」
そう口走ってからハッとする。顔が赤くなってきてカメラを咄嗟にオフにした。
「あれ? 何も見えなくなった……」
「ごめんなさい……カメラオフにしたの。本当にごめんなさい、今のは忘れて……下さい」
「どうして? 俺は嬉しかったよ。こんな俺の事好きなんて言う人居なかったし、それに俺のすげぇ醜い顔の事も知ってるんでしょう? あの動画で褒めてくれたのは君だけだ。忘れたくないよ……ねえ、カメラオンにして欲しいな?」
囁くような優しい声、鼓動が速くて顔は熱いのに指先は冷えてきて……。私はカメラをオンにする。でも画面を見ることは出来なくて……。
「あ、映った……って、何で顔隠すの」
「やっ……だって恥ずかしくて……」
「何も恥ずかしい事無いでしょ?」
「恥ずかしいよ。だって私からしたらずっとファンだったTaKeRuと話してるんだよ? 同僚とか同じ会社とかそんなの気にしてなくて、まさか同じって事にも戸惑ってて…」
「何それ。電話してくれたのは君でしょ。それとも、電話した事を後悔してる?」
「それは無い! そんなの絶対無いから!」
否定するため隠していた顔を無意識に出してしまうと、タケルは画面越しに頬杖を付いて私を見つめていた。心臓が、ドクンッ! と脈打つ。
「タケル……」
「俺……今の瑞希が隣に居たら……ヤバかったなあ。制御出来る自信ないわ」
「なっ……!!」
「可愛い人だね瑞希は。優しいし人を見た目で判断しない事は分かってる。だから惹かれるんだろうね」
「や、やめてよ……もう……」
この会話自体が本当にカップルみたいで恥ずかしい。だけどもっと彼と話したい、そんな欲がふつふつと湧き上がる。
「ありがとう、俺と話してくれて。多分これからも会社には言わずにひっそり弾き語りしてると思うから聞いてくれると嬉しいよ」
「もちろん、聴く。あの、タケル……」
「……おやすみ瑞希。それじゃ」
「あっ……うん、おやすみ。タケル……」
通話が切れてしまう。画面に表示されたままの会話履歴を眺めて少しだけ、虚しさと寂しさを感じている時だった。
『逃げる様な形で電話を切ってすみませんでした。でもこんな俺の事認めてくれる人が居るって分かっただけでもすごい嬉しかったです。謹慎がいつ解けるか分かりませんけど、歌の動画はあげます。それと……あの愚痴というか喋ってる動画は消しますね。冴島さんと話せて良かったです。おやすみなさい』
そんなメッセージが送られてきた。他人行儀な文面、さっきまで私の事をドキドキさせたり、照れさせたりしてたくせに。私の事なんてきっと何とも思ってない。毒島さんはTaKeRuが好きな私を思って付き合ってくれていただけなのだろうか?
私が夢見る乙女にでも、見えたのかな? その期待を裏切らないようにしてくれたのかな? だとしたら彼とはもう……話せないの?
『冴島さんなんて、呼ばないでよ。さっきまで楽しく話してたのに。私はあなたの事を誰よりも分かってあげられると思う、独り善がりかもしれないけど。ねえ、明日も話したいな?』
そうメッセージを送ったものの、一時間経っても既読にはならなかった。
彼の事をもっと知りたい、もっと話したいし力になれる事があるなら力になりたい。彼の素敵な所を知ってるからこそ、独り占めしたい。
「タケル……。私は……あなたの事が……」
そんな文面を打ちかけて止める。今の彼に私の本気は伝わらないのかもしれない。同情と思われてるのかもしれない。でも、彼に分かって欲しかった。私が本気で想ってるって事を。
「タケル……私、あなたの事が、好きだよ」
アイコンを見ながらそう呟くも何だか恥ずかしくてこそばゆくて……。
時計に目をやると時間は夜の9時を過ぎていた。私はそのままお風呂に向かって身体を綺麗にした後、スキンケアをして寝床に入った。
彼に意識して貰うために少しだけ小綺麗にする。明日映る私は彼の目にどう映るだろう。話してくれるかも、分からないけど……ね?
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