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当然逃げ出した前の帝は面白くはない。いや、前というより、未だ自分は帝だと主張している。
平和に見える都も、周りでは二人の帝、いったいどちらが真の帝なのかと色めき立っている。やれこちらが本物だあちらこそが本物と、言い合う声は次第に大きく変わってゆく。小さなうねりは段々と大きさを増してゆき……両の勢力がにらみ合う状態が続いていた。
もっとも――そんなことは俺にとって些末なことでしかない。
……そう思っていた、のだが。
「ちょっと、帝」
「どうした、黒(くろ)」
いま目の前には、渦中の帝が座っている。
なんでこの帝、貞観殿(おれんとこ)に押しかけて寛いでんの。
渦中の帝……なんだよな?
帝の今の姿はといえばだ。脇息に寄りかかり、唐菓子を口に入れながら書物を読んでいる。あらかじめ人払いはしているものの、いくらなんだって寛ぎすぎだろう。
大臣達が見たら卒倒しそうな光景だ。
渦中の帝……なんだよね?
「なにやってんだあんた」
「見れば分かる通り、書物を読んでいるが」
「そうじゃねえよ! なんで貞観殿(おれんとこ)で寝っ転がって書物読んでるんだって話だよ!」
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