壱:男子校へ入学

4/4
前へ
/127ページ
次へ
その言葉に仕方なく周りを見渡してみる。 確かに大勢の目付きの悪い奴らが、一様にこちらを見ていた。 「ほら。 奴らが飛鳥殿を見る目付き、まるで空腹の肉食獣が獲物の小動物を見つけた時みたいな獰猛さそのものです」 「そうか…?」 私は首をかしげながら、もう一度周りを見た。 遠巻きにこちらを見ている奴らの会話が聞こえてくる。 「おい。なんで女子がここにいんだ?」 「さぁ、知るか。 今年から男女共学になったんじゃね?」 「んなことあるわけねーだろ。 てか、あの子めちゃくちゃ可愛くねーか?」 「アホ。あれは可愛いなんてレベルじゃねーよ。 美しさのあまり、後光がさしてるじゃねーか」 「ほんとだ。 神か仏か、はたまた天使か…」 そいつらは私に向かって手を合わせて拝み始める。 (……どんなふうに私が見えてんだ…) 「飛鳥殿。 何やら抗争みたいなのが始まったようですので、巻き込まれないように早く行きましょう」 「抗争…?」 佐武の指差す方を見ると、確かに集団で何か言い争っているようだ。 その内容がこちらまで聞こえてくる。 「離せコラ!ちょっとあの子に声をかけてくるだけだって!」 「ふざけんな」 「てめぇはすっこんでろ!俺が先だ!」 「抜け駆けすんじゃねー」 と。実に平和に喧嘩していた。 「…あれのどこが抗争だ」 私は佐武を置いて、さっさと校舎へ向かう。 「あっ。飛鳥殿! ちょっと待ってくださいよー!」 佐武が私を追って走ってくる。 だが振り向かない。 私には外野にいちいち構っている暇などないのだ。 (…さっさと、例の刀を見つけないと) そして、さっさと、このむさくるしい野郎だらけの高校から出ていくのだ。 私は気持ちを今一度引き締め、歩みを速めた。
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加