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スラリと姿を現したそれは重厚な拵えの黒塗りの鞘に収まった刀だった。
優に一メートルほどもある立派なそれはとても制服の中に収まっていたとは思えない。
「…それは本物の古備前包平か?」
現実味のない光景に思わずそう問いかけると、
千賀は鯉口を切り、鞘から刀を抜き放った。
「━━試してみる?」
ぎらりと鋭く輝き放つ長い刀身をこちらに向け、嘲笑う。
隣に控える佐武はそれを目にした瞬間から身構えていた。
「望むところだ」
私はその鋭利な刃を見つめながら答えた。
(これが本物の古備前包平だとしたら…)
これを奪うことさえできれば、父さんに私を一人前として認めさせることができる。
私は意を決して、千賀に言い放った。
「お前に本気の勝負を申し込みたい。
私が勝てば、その刀は私が貰い受ける」
「強引な交渉だね」
千賀はそう言いながらもすんなりと頷いた。
「…まぁ、いいよ。
その代わり、俺が勝ったら何でも一つ言うことを聞いてもらっちゃおうかなぁ」
「いいだろう」
「飛鳥殿!」
佐武が私を呼び止めた。
「こんな得体の知れない相手に、いきなり一人で挑むのは危険です。
やるなら俺が先に相手してやりますよ」
「佐武。手出しは無用だ。
私はこの為だけにわざわざこの高校に入学してきたんだから」
「しかし…」
「心配も無用だ。私は必ずこいつに勝つ」
私は目の前の相手を見据えながら宣言した。
千賀は不敵に笑う。
佐武はそれ以上何も口出ししてこなかった。
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