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「まだいたの?」
「ーまだって言わないで欲しいです。なんか傷つく…。」
「あっ、ごめんなさい…」
私のちょっとした発言に少しムスっとした天馬だったが、すぐにいつもの笑みを顔に貼り付けると向かいの椅子を指差した。
ー座れと言う意味だろうか…
そのまま向かいの椅子に腰掛ければ、頬杖をついた天馬が視線を合わせてきた。
ほんと、こうゆっくり眺めていると何処となく宙に似ている。目元とか、あとは、今見たいに優しく見つめてくる感じとか。
手元のグラスに両手を添えて、薄く茶色の中身を見つめていると、私を呼ぶ声に彼に視線をやれば、ジッと見つめられていた。
「ーどうかしたの?」
「いや…なんとなく呼んだだけです。」
「…なんとなくですか…?」
「ー兄貴のこと。」
ポツポツとお互いに探り合うように話合っていれば、急に宙の話題。何かと身構えていたが、
みのりは天馬に告白されていたことを思い出す。
「兄貴のこと、好き?」
「ー好き、だよ。」
「辛いなぁ…はっきり言われると。」
「その…天馬君の気持ちは嬉しかったよ。でも…」
「あっ!待って待って!!」
告白の返事を言おうと言葉を選びながら、ゆっくりと発していれば、彼にもなんとなく話の内容が伝わったのか、静止を掛けられた。
「いい。言わなくて分かりますから。分かってて言ったんです。」
困ったように彼は眉を下げて、笑う。
その様子をただ、見ていることで静かに察してそれ以上を話すことを辞めたみのり。
「兄貴と幸せになって下さいね?」
「…ありがとう、天馬君。」
天馬の祝福にニコリと微笑めば、彼は席を立ち、鞄を手に持つと出口へと向かって行った。
「これからも、よろしくお願いします、井上先輩!」
少し向けられた顔は笑顔で、ニカッと笑うと、帰って行った天馬。みのりは浅く呼吸をすると自然と口角が上がった。
ひとまず、ギクシャクした関係にならなくて良かった。きっと、大丈夫なはず。そう思い、みのりはグラスに残った中身を一気に飲み干すと愛のお迎えに行くための準備を始めた。
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