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魔女と痩せた黒猫
キャラクターイメージ
柚木 香(ゆずき かおる)
高天 早紀(たかま さき)
ワイフラボさまで作成しました。
魔女と痩せた黒猫
西の茶店
その日まで、俺は自分自身を疑うなんてしたことはなかった…。
そろそろ日も暮れるのが早くなってきた十月。一年の全国大会の選抜以来、レギュラーに居座っている俺は、朝も放課後もサッカーに明け暮れて過ごしていた。
妬みで「サッカーバカ」と言われようと、レギュラーになれたどころか、『期待の新星』と新聞にまで載ったことが、嬉しくてたまらなかった。
それまでは、いくら熱血サッカー少年をやっていても、いつも補欠止まりでいまいち冴えない影だった。これで力入れなきゃ、本当のバカだ。
その日も汗と砂埃まみれになって帰って来た俺に、母さんが汚い捨て猫でも見るみたいに、「先に風呂に入ってちょうだい」と、リビングから俺を追い出した。
何か一つ脱ぐたびにパラパラと落ちてくる砂に、ヤバイな、と顔を顰めている時だった。
「手紙が来てたから、机に置いておいたわよ、香」
ドアの向こうで母さんの声がして、俺は砂がバレたのかとギクッとした後、なんでもないように答えた。
「サンキュー。風呂出たらすぐ飯にしてくれる?腹減っちゃってさぁ」
はいはい、と呆れた声で返事が帰ってきて、俺は誰からの手紙かも考えず、頭からシャワーをひっかけた。
「そーいや、手紙が来てるって? 」
シャワーを済ませて自室に帰り、机の上に置かれたワインレッドの封筒に目をやった。
ダイレクトメール…?違うな、なんだよこれ、猫模様の消印?
切手も何も貼っていない封筒に、くっきりと捺された場所も日付もない消印は、見たこともないひょろりとした猫の模様だった。
痩せた黒猫の消印に、パソコンの宛名書?
何となく気味悪いと思いながらも、好奇心の方が強くて、俺は丁寧にはさみで封を切った。
中は封筒と揃えたように、微妙に色の違うワインレッドで、宛名書きと同じでパソコンで打たれていた。
シンプルに折られた便箋を広げ終わると、真ん中に寄せたように並んだ短い文章が、よけいに気味が悪かった。
『柚木香さま
魔女契約の有効期限は一年間です
失効と再契約につき後日お伺いします
高天早紀』
「魔女!?」
契約の有効期限だの、失効だの、再契約だの…おまけに、《高天早紀》って、誰だよ!?
じっくりと便箋を見入ったものの、悪戯にしては凝っている。
「かおるー!何してるの、ご飯が冷めるわよー!」
母さんが呼ぶ声がして、俺ははっと我にかえった。
イタズラだ、イタズラ!消印だって、こんな模様のスタンプでも買ったんだろ!俺がなにを契約したって言うんだ!
そう決め込んで、俺は便箋を封筒に戻すと、机の引き出しにしまい込んだ。
後で捨てればいいや!
ジーンズをはいて手早くパーカーを引っ掛けると、俺はばたばたと階段を降りていった。
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