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サインをする最中、ふと気付いたように手を止めて、女は顔を上げた。 「さっきからその猫以外誰もいないけど、ここってお兄さん1人でやってるの? お兄さんが店長?」 「はい、私が店主です」 「そっかぁ、なんかすごいね。お兄さんもまだ若いでしょー? なんでそんなにお金あるの? もしかしてお兄さんもホストやってたとか? あは、冗談だよぅ。……はい書けた」 笑い混じりに女は契約書へのサインを終える。 「はい、確認いたしました。それでは契約成立ということで……お約束の報酬です」 「わ……!」 報酬は全て現金での受け渡しとなった。女は目を輝かせ、手にした札束を大事そうに握った。 「これで絶対零士も喜んでくれる……!」 いそいそと札束を手持ちのリュックに詰め込む女に、男が告げる。 「この店から出た瞬間から、貴方は外見上5歳分歳を取ることになります。 再度のお伝えとなりますが、今後年齢を元に戻すといったことは致しかねますのでご理解ください」 「分かってるって、せっかくお金もらったしそんなこと言わないし。 それより私、早く零士のところ行かなきゃいけないから帰る。 それじゃあ、なんか色々ありがとうございましたぁー」 女は口早に言って、走り出しそうな勢いで出口に向かっていく。 「……ありがとうございました」 そんな女を、男は穏やかな笑みを携えながら見送る。 男の膝の上で、猫がニャアと短く鳴いた。
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