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自分でも何が起きたかわからない。しかし、ピクリとも動かない盗賊たちと、自分の体に感じる生暖かい液体が物語っている。
手から力が抜け、剣が地面に落ちた。
「オーウェン……」
背後から聞こえる、弱々しい主人の声。怯えているとも、心配しているとも取れる。恐らく両方だ。
「……私なら大丈夫です。しばしお待ちを」
背を向けたまま平静を装った。赤く染まった上着を脱いで、無事な部分で顔を拭き、剣の血も拭って鞘に納めた。
坊ちゃんを不安にさせてはいけない。
こんなことはこれから何度も起きるはずだ。
正義のためだ、正当防衛だった。
私は正しいことをした。
それなのに、なぜだ?
手が震える。
心臓の音がやけにうるさい。
頭の中で罪悪感が叫ぶ。
私は今、初めて人を殺したのだ。
「オーウェン」
コンラッドに後ろから服を引っ張られハッとする。オーウェンが振り返ると、コンラッドはオーウェンを抱きしめた。
「坊ちゃん、血が、つきますから……」
血まみれの手では触れられず、オーウェンは言葉だけで抵抗する。美しい顔が、名門校の学生服が、最高級の靴の底が、赤く汚れた。しかしコンラッドは離さない。
「お前だけには背負わせないよ。守ってくれてありがと」
隠したつもりの不安を見透かし、あやすような優しい声音。オーウェンはつい泣きそうになり唇を噛んだ。
「……お怪我はございませんか」
「ちょっと膝ぶつけただけ」
「……では、行きましょう。どこかで騎士団に通報しなければ」
コンラッドはオーウェンを離して、血のついた顔で優しく微笑んだ。
2人は手を繋ぎ、その場を立ち去った。血溜まりから伸びる共犯の証を残しながら。
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