シェイプチェンジャーMIMI

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 う、うそ、うそ、嘘〜〜〜!?  な、何コレ?じょ、冗談でしょ?  い、いった〜い!引っ張っても取れない!  て、ことは、本物?  夜中に起きてトイレにいって、鏡を見たら…。  な、なんでなんでなんでなんでなんで〜〜〜!!  なんで猫耳が生えてるの〜〜〜〜〜!!??  私、金子ミミ。私立S学園に通う小学5年生。  友達からはミミとか、金子の下を取ってネコさんとか呼ばれてる。  ミミは猫っぽいよね〜、とか、猫顔だよね、とか言われてる。  前世が猫だったんじゃないの、ってのもある。実際、月刊ミーの前世診断で猫だったし。  けど、なんで急に猫耳なんかが生えてくるの?  おまけに、お尻からは猫の尻尾まで生えてるじゃないの!  他にチェックしてみたけど、変わっているのは耳と尻尾だけだった。  ど、ど、ど、どうしてこうなったの?寝る前のことを思い出してみる。  今日は夕方、酷い雷が鳴って、怖くてお外に出れなくて。  夕飯後に喉が渇いちゃって、冷蔵庫にあったかき氷を食べて。  あ〜ん、だから夜中にトイレに起きちゃったのよ〜。  いや、そうじゃない。私が起きちゃったのは、アレが聞こえたから。  アオーーーン……。  ほら、また。狼の遠吠えみたいな。  近所にそんな鳴き方する犬なんていたかしら?  これはきっと夢。夢を見ているんだわ。朝になれば、猫耳も尻尾も消えてしまっている。  アオーーーン……。  でも、なんか気になる。どうして?普通、怖いって思うところじゃない?  ちょっとだけ見てみよう。パジャマのままサンダルを履いて外に出る。  外は綺麗な満月。怖いくらい妖しく光ってる。もう雨も雷も、とっくの昔に上がって、いいお天気。  アオーーーン!  やっぱり。はっきり聞こえる。そこの角のところ。  なんか猫がいっぱい。近所の野良猫が集会でもやってたの?  ドキドキ…。 「やあ、金子さん」 「きゃっ」 「しっ、驚かないで。僕のことは知ってるよね」  知ってるわ。6年生で生徒会長の大神ウルフさん。  全校中で知らないものはいない、女子生徒の憧れの的。  成績優秀、スポーツ万能、人望もあって、いうことなし。  なんでも外国の血を引いているとかで、銀髪で青い目をして、かっこいいんだ。  そのウルフさんが、なんでこんな時間にこんなところに?  って、やだ私、パジャマのまんま。それより、猫耳!尻尾!どうしよう!? 「ごめん、ごめん。急に呼び出されてパニックになるのもわかるよ。でも、どうしても君の力を借りたかったから。それより、ここ見て」  と、ウルフさんは自分の頭を指差した。 「あ、耳!?」  そこには、私のに良く似た、ケモミミが。そして尻尾。太くてフサフサしてる。 「僕のは狼の耳と尻尾だよ。さっきの遠吠えは、君を呼ぶためのもの」  え、じゃ、じゃあ、ウルフさんって狼男?私は月を見上げた。 「あはは、そうじゃないよ」  ウルフさんは笛を取り出して吹いた。  アオーーーン! 「これは猫招きっていってね。君を呼ぶために吹いたんだ。近所の猫まで集まってきてしまうのが難点だけどね」  それでこんなに猫が多いんだ。 「さあ、いくよ。時間がないんだ。今日は満月が綺麗すぎる」  ウルフさんは私の手を引いてどこかにいこうとした。 「ちょ、ちょっと待って、待って」 月が綺麗すぎるからって、そんな誘い方…。 「話はいきがてらするよ」  そうじゃないの。だって、憧れのウルフさんとデートだってのに、この格好じゃ決まりつかないでしょ?  ***  というわけで、私はかわいい格好に着替えてきたの。  フワッとしたブラウスに、ミニスカート。ちょっと大胆?だって尻尾が邪魔だもん。ミニじゃないとね。 「今から学校にいくよ」  走りながら、ウルフさんが説明してくれた。  どうして私に猫耳が生えたのか。  大昔、この世は人間と動物に分かれていなかったの。  みんな半人半獣で、平和に暮らしていた。  それがあるとき、動物を捨てて完全な人間になろうという人たちと、人間を捨てて動物の暮らしを選ぶ人たちに分かれた。  やがて人間を選んだ人は動物の気持ちがわからなくなり、動物を選んだ人は人間の気持ちがわからなくなって、お互いに争うようになった。  でも、それを見越して、半人半獣を維持する人たちもいた。  普段は人間として生活しているけど、特別なときにだけ動物の能力が現れるように。  それがシェイプチェンジャー。つまり、私とかウルフさんみたいな人。 「シェイプチェンジャーは人間でありながら、動物の言葉がわかるなどの特殊能力があるんだ。多くの人は動物園や獣医さん、自然保護の仕事について、その能力を活かしている。人間と動物が仲良くやっていくためにね。ちなみにシェイプチェンジャーの能力に目覚める時期は人それぞれだ。僕は幼稚園のときにはもう目覚めていた。あ、耳と尻尾のしまい方は後で教えてあげるから、心配しなくていいよ」  でも、そういう人たちがいるってことは、逆もあるわけで。  動物たちは人間なんかと仲良くする必要はない。人間が環境破壊をして、動物の生存を脅かしているんだ、という人たちもいる。  この人たちは、動物に変身できる能力を、人に害をなすために使おうとする。 「そういう人たちをライカンスロープっていってね。君もよく知ってる、狼男なんかがそうさ。悪の心に染まった彼らは、もはや恐ろしい化け物だ」  表向きには知られていないことだけど、有史以来シェイプチェンジャーとライカンスロープの戦いが繰り広げられてきたんだそうな。  もちろん、日の光が当たらない闇の中で。  *** 「着いたぞ」  学校に到着。真夜中に見る校舎は、いつもと違って不気味な廃墟という感じ。 「きゃっ、何これ!?」  うっそー!人が倒れてる!?二宮金次郎の銅像のところ。  あの大きな体は、生徒会副会長の熊本清正さんじゃないの?  通称ベアさん。体は大きいけど、ホンワカした感じで、下級生にも慕われている。  もう一人は、こちらも副会長の宇佐美ラビさん。きっぷのいい姉御肌で、下級生の女子の中にはファンクラブまであるんだ。 「ベア!ラビ!」 「ううう…」 「どうしたんだ、二人とも」 「油断していたよ。やつらの方から先制攻撃してきた」  よく見ると、ベアさんには熊耳に熊尻尾。ラビさんにはうさ耳うさ尻尾だ。  二人ともシェイプチェンジャーだったんだ。 「ウルフ、あれを」  え、二宮金次郎の銅像が倒れて黒こげ!さっきの雷が当たったんだ。  それより、元々立っていた場所には、ポッカリと黒い穴が。 「この二宮金次郎はね、地下のライカンスロープたちを封印していたんだ」  ということは、雷で封印が解けちゃったの? 「ウルフ、やつらは校舎にいったぞ」  苦しそうな声でラビさん。 「よし、わかった。後は僕たちに任せておけ。ミミ君、いくよ!」  え、え、いくって!?  疑問がいっぱいあったけど、ウルフさんに手を引かれて駆け出していった。  何があろうと二人なら大丈夫…、よね?  *** 「うわ〜、不気味」  校舎の中はまるでお化け屋敷みたい。おどろおどろしい雰囲気で満ちていた。  普段、通っている廊下も、まるで地獄へ続く一本道みたい。 「大丈夫、君もシェイプチェンジャーの力を使えるようになっているから」  ウルフさんが説明してくれたところによると、耳と尻尾が出ている間は、その動物の能力が使えるんだって。それも本来の何倍も。  だから、今のウルフさんは、野生の狼の何倍も強いってわけ。  でも、私は?猫って、どんな能力があるの?  あれ?なんか聞こえる。上でカサカサいってる? 「危ない!」 「きゃっ」  嘘、ウルフさんに突き飛ばされた!?すごい力で体が宙に浮く。  普通だったら、そのまま床に激突するんだろうけど、クルッと一回転。見事に着地した。  これってやっぱり猫の力?  それよりショック。どうしてウルフさん、私を突き飛ばすの?  その理由はすぐにわかった。さっきまで私がいた場所には、とんでもないものが。天井から落ちてきたんだ!  ウルフさんが突き飛ばしてくれなかったら、今頃、私、ペッチャンコ? 「ガッハッハッハ、ハー。お前たちもさっきのやつらの仲間だな」  喋っているのは、でっかいサソリ!うっそ〜、日本にサソリなんていないよね? 「よくもベアたちをやったな」 「フハハハ、二の舞にしてくれるわ」  ブンっと大きな尻尾を振るう大サソリ。ウルフさん、危ない!  でもウルフさんは、サッと避けてサソリの後ろに回り込んだ。すごいスピード! 「これでも喰らえ!」  サソリの尻尾を捕まえると、腕にギュッと力を入れた。  メシメシ…、バッキーン! 「あぎゃあ〜!」  うわ、すっごーい。尻尾をちぎっちゃった。 「くう〜、かくなる上は!」 「危ない!」 「きゃっ!」  サソリが最後の力を振り絞って、私に飛んできた!?  どうしよう、避けられない! 「ぐうっ!」  ボン!  ズザザザザァッ。  え?私、やっつけた!?サソリはだいぶ向こうの方で、仰向けになって伸びている。 「ふう、ナイス猫パンチだったね」  ウルフさんはニコッと微笑んでくれた。  やだ〜、私、サソリをぶっ飛ばしちゃった。猫パンチってすごい。  ***  その後も私たちは、校舎の中を進んでいった。  途中、サソリが何度も襲ってきたけど、その度に猫パンチでやっつけてやった。  よ〜し、もう何が来たって怖くないぞ〜。なんていうのは嘘。やっぱりウルフさんが頼みの綱。一人だったら、絶対無理だよ〜。  でも、ウルフさんってほんと強い。ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、サソリの攻撃を寄せ付けない。  改めて憧れちゃうな。 「こいつらはザコだよ。親玉をやっつけないとキリがない」  どこにいるのかしら、ライカンスロープの親玉。  私たちは校舎内を駆け回って、ようやくある部屋の前にたどり着いた。  そこは校長室。  親玉がいるとしたら、ここかしら? 「よし、行くよ!」  ガラッと開けて中に入る。  うわっ、何コレ?むわっとした空気。やだ〜、絶対なにかいそう。 「クックック、よくぞ来たな、堕落したシェイプチェンジャーどもよ」  ひゃ〜、でっかい狼!二本足で立って喋ってる!狼男だわ。 「お前が親玉だな!」 「そうともよ。俺たちはこのときをずっと待っていたのだ。地下の封印が解かれるときをな」 「お前たちの好きにはさせないぞ」 「好き勝手やっているのはどっちの方だ。自然を破壊し、動物たちから住処を奪い、地球を汚す人間どもの方だ。貴様、誇り高き狼の分際で、人間の手先になるなど笑止千万」 「人間は自然と共生する道を歩み始めているんだ。お前たちのように、気に入らないものを力でねじ伏せるやり方は認められない」 「ほう、ではお前の仲間はどこにいったんだ?日本に野生の狼はいるのか?」  この話は聞いたことある。昔は日本にも、ニホンオオカミっていって、野生の狼が生息していたんだって。  でも、開発によって絶滅しちゃったんだとか。 「人間は過ちを犯すこともある。でも、それを教訓にしてより良い世界を作っていける生き物なんだ」 「綺麗事をぬかすな。一度壊れたものは、もう二度と戻ってはこない」  狼男の両目が妖しく光った。 「うわあ!」  途端に苦しみだすウルフさん。なに、どうしちゃったの!?私はなんともないよ? 「フハハハ、狼の王たるこの俺様に勝てるとでも思ったか。俺は狼を操る能力があるんだ。我が僕よ、そこの女を捕らえるのだ」  やだ、ウルフさんの目が不気味に光ってる!操られてるんだわ。 「ミミ君、さあおいで。一緒に動物たちの王国を作ろう」  一歩、一歩、近づいてくる。ウルフさんに迫られちゃうのは嬉しいけど、こんなの嫌だ〜! 「ミミ君?聞き分けのない子だね。僕は素直な女の子が好きだよ。クワアアアアーー!!」  恐ろしい表情で牙を剥き、襲いかかるウルフさん。 「キャアーーーー!!!!」  あ、あれ?やだ!?  考えるよりも体が先に反応して、猫パンチをかましていた。  ウルフさん、仰向けに伸びちゃった。ごめんなさい。でも、猫最強説って本当? 「きゃっ」  腰に毛むくじゃらの太い腕が巻きついた。うわっ、すごい力! 「離して!」  狼男は私を抱えたまま、窓から外に出ると校舎の壁をよじ登っていく! 「いくら猫といっても、屋上から落ちれば無事ではいられまい」  嘘〜っ!?私を突き落とすつもり?どうしてそんな恐ろしいことができるの!?  ウルフさん、助けて〜!  って、私が倒しちゃったんだ〜!!!  狼男はあっという間に屋上へ。 「フハハハ、命が惜しいか」  ウンウンと頷く私。 「ならば、俺の仲間になれ。仲間になって、動物たちを追いやった人間どもに復讐するのだ!」 「嫌よ!こんなことする人の仲間になんて、絶対にならない!」 「そうか、では地面にキスでもするんだな」  狼男は、私の首根っこを掴んで大きく振りかぶった。  このまま投げるつもり!?嫌〜〜〜!!!  そのときだった。 「うを!」 「きゃ」  急にバランスを崩して倒れる狼男。  あ、ラビさん! 「ミミ、大丈夫か!?」  そこには、うさ耳うさ尻尾のラビさんがいた。  すごい、ラビさん、校庭からここまでジャンプしてきたの?さすがはうさぎの跳躍力。 「うぬぅ、邪魔が入ったか、小癪な」 「きゃあ!」  すぐに回復した狼男に突き飛ばされる。苦しそう。ラビさん、まださっきの怪我が回復していないんだ。 「フン、こやつは後回しでいいわ。まずはお前から地獄に突き落としてくれる」  や、やだ、私!?  ウルフさんもいないし、ラビさんはあんなだし。  で、でも、私だってシェイプチェンジャーの端くれ。勇気を奮い起こして戦うわ。 「きゃっ」  電光石火の狼男の攻撃!  目にも止まらぬ早業だけど、ヒラリとかわして屋上のフェンスに飛び乗った。  これには私もびっくり。考えるより先に体が動く。 「おのれ、すばしっこいやつめ」  狼男もヒラリとフェンスに飛び乗る。向こうだって負けてない。  不安定な足元をもろともせずに、ダッシュしてくる。それをサッとかわす私。空中で一回転して、見事に着地。  すごい、さっすが猫。身が軽いわ。  一歩足を踏み外せば落ちてしまうというのに、全然怖さを感じない。むしろ余裕すら感じる。  そうだわ。猫っていつも不安定なところに上りたがるけど、あれって天敵に襲われないためだって聞いたことがある。  こんな細いフェンスの上も、私にとっては水を得た魚、マタタビを得た猫よ!って、これは違うか。  対する狼男は、体が大きいせいか、なんだかドタドタした感じ。ときどき、おっとっとってなって危なっかしい。  よお〜し、ここなら私の方が有利だわ。 「鬼さんこちら〜、手の鳴る方へ〜」 「この、生意気な!」  ワザと狼男を挑発した。本当はお尻ペンペンってやりたいけど、女の子だもんね。 「そんな下品な走り方で、私が捕まるとでも思ってるの!?」  ヒラリ、ヒラリと追っ手をかわして走る。狼と女の子じゃ、いつだって女の子の勝ちなんですから!  私はフェンスの端まで到着すると、くるりと狼の方を振り向いた。 「マヌケな狼さん、ここまでは来れないでしょうね」 「甘く見るでない、小娘よ」  ウフフ、さあ、突っ込んできなさい!あなたには地面とお友達になってもらうわ。  そう思った私は、ちょっと甘かった。狼は次の瞬間、予想外の行動に出たのだ。 「アーオーーーーン……!」  遠吠え?え、え、え!?  きゃー、怖ーい!  やだ、どうしよう。急に、お腹の底から恐怖が込み上げてきて、あ、足がすくんで動けない! 「フハハハ、我が恐ろしさから逃れられる動物など皆無」  狼男は舌舐めずりして近づいてくる!  ガシッ。毛むくじゃらの太い腕が私の首に回された。 「ククク、お嬢ちゃん、もっといいところにいこうねぇ」  や、やだ、怖い、気持ち悪ーい!  本能だったかもしれない。野生の本能で、私はガブッと狼男の腕に噛み付いた。 「ぬあっ」  恐怖の金縛りから解ける。  自分の体が暴れるのがわかる。まるで猫がイヤイヤをして、抱っこしようとした人の腕から離れるように。  私の足が狼男を蹴っ飛ばした。そこまではわかった。  黒い物体が目の前を落ちていく。  それを見ている私も、なんだか宙に浮いているような、天国にいるような…。  あれ、景色が逆流していく?  う、嘘!?こっから落ちたら、いくら猫だって……!!!!! 「キャアアアーーーー!!!」  ドサッ!  …………………あ………天国って……あったかい。  なんだか大きなものに包まれているような安心感。 「気がついたかい?」  ん、この声は…、ベアさん!?  私、ベアさんの腕の中。受け止めてくれたんだ! 「狼男は?」 「ああ、あそこで伸びてるよ」  安心感とさっきの恐怖が蘇ってきたのとで、私は泣き出してしまった。  ***  しばらくして、ウルフさんとラビさんが戻ってきた。 「良かった、無事だったか」  涙はもう引っ込んでいたけど、さっきまで泣いてたってバレちゃうかな?  でも目が赤いのは勘弁して。うさぎなんだから、って、猫だったわ、私。  好きな人に泣き顔なんて見せたくないもんね。 「よく頑張ったね、君のおかげだ」  頭を優しく撫でてくれる。えへ、また泣いちゃいそう。  でも、猫は気高く気まぐれに。いつもいつも甘えん坊さんじゃないもんね。 「さてと、こいつの始末だけど」  狼男は伸びちゃってたけど、まだ息があった。  銀の弾丸で心臓を撃ち抜かないと倒せないんだって。 「しばらく悪さをすることもないだろうから、また封印を元に戻しておこう。二宮金次郎は、新しいのにするしかないな。明日、早速生徒会から学園に提案しておこう」  金次郎さんはかわいそうに、雷に打たれて黒こげだもんね。 「ま、それまでは大丈夫でしょ。頼もしい味方も増えたことだしね」  ウルフさん、私を見てニッコリ笑ってくれた。  えへへ、でも、またこんなことやることあるの? 「まさか校庭の二宮金次郎の銅像の下に、こんな恐ろしいものが封印されているだなんて、思ってもみませんでした」  というと、ウルフさんはさも当然みたいにいってのけた。 「ああ、全国中の二宮金次郎の下にライカンスロープが封印されているよ。他のところは大丈夫だったかな」  だって!信じられる?  でも、シェイプチェンジャーも私たちの他にもいっぱいいるみたい。  これからその人たちに出会う機会もあるのかなぁ。 「考えてみれば悲しい話だよ。人間と動物がうまく共存できていれば、ライカンスロープだって人を襲うことはなかったんだから」  と、ベアさん。  そうなんだ。私もサソリや狼男と戦いながら、そんなことをチラッと考えたりしていた。  猫みたいに、うまく人間の生活に溶け込める動物ばかりじゃないものね。  野生でしか生きられない動物は、ニホンオオカミみたいに絶滅するしかないのかしら。 「ふわぁ、また明日も学校だ。早く帰って寝ようっと」  ベアさんが大欠伸。私も疲れた〜!まだ少しは寝れるわよね。 「ベア、悪いけど、まだ一仕事残ってるよ」 「え?」 「だって、普通の生徒が登校してきて、大サソリの死体がゴロゴロ転がってるのを見たら、どう思う?」 「くあ〜、徹夜かあ〜」  大袈裟に天を仰ぐベアさん。 「人使いの荒い生徒会長さんだこと」  ラビさんもやれやれ。 「あ、ミミ君はもう帰ってもいいよ。生徒会だけでやっておくから」  なんていわれたけど。 「やる、やります!次回の選挙で立候補します!」  だって、耳と尻尾のしまい方もまだ教えてもらってないし。このまま帰ったらママがびっくりしちゃう。  それに、もうちょっと一緒にいたい。 「本当?悪いね、でも嬉しいなあ」  私も嬉しい。ウルフさんの役に立てるんだもん。 「ミミ、気をつけなよ。こいつ女ったらしの肉食獣だから」 「こら、ラビ、デタラメいうんじゃない」  え、そうなの?  でも、猫だって生粋のハンターだもんね。な〜んて。 「お〜い、イチャついてないで早く仕事するぞ。それからウルフ、朝ごはんはお前のおごりだからな」  ベアさんはもう校舎の玄関にいた。 「あたしもおごってもらおっと。ファミレスだからね」  ラビさんが、ピョーンと跳ねていく。 「牛丼屋だよ〜」  ウルフさんも。この人たち、いつもこんなことしてたのかな。 「待ってくださ〜い!」  私も遅れないようについていかなきゃ。猫って意外と寂しがり屋さんなんだから。
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