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赤ずきんの話 1
戸が叩かれた。開くとそこには、赤いずきんのケープを羽織った少女が立っていた。
「赤ずきんと言います。ここは物語の結末を変えてくれる場所でしょうか」
久方ぶりの客をしばらく眺め、私はこたえる。
「そうだね、古今東西過去未来、どんな書でも私に願えば結末は変わる」
「お願いします、どうか話の終わりに狼を殺さないでください。私は彼と添い遂げたいの」
なるほど、長く物語の中で時を重ねるうちに、互いに懸想してしまったか。よくある話だ。
「それで?対価は?」
少し俯いて、こう答えた。
「・・・では祖母を。祖母の命を差し上げます」
「初めから死ぬ人間じゃないか。全然足りないね」
再び俯いて、しばしの沈黙した後、私の目を真っ直ぐみつめこう答えた。
「猟師を。最後に彼を撃つはずのあの猟師。私があの猟師を殺します。その命ではいかがでしょうか」
お嬢ちゃんにしては思い切ったねえ?と、震える少女の瞳を面白く見つめ返した。
「全然足りないけれど、自分の手を穢してでも欲しがる強欲さはとても良いねえ、それで手を打とう」
こくり、とうなずき青白い顔で赤ずきんは出て行った。
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