それは幸運だった

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私は部屋を見回していつもご飯を入れてくれる皿の方へ行ってみる。 本当は犬のように皿を咥えて持って行ければ早いのだが、以前やろうとして歯を痛めた。 このやろう、とばかりに皿に猫パンチをしたら気付いてくれたようだ。 「あ、ごめん夕陽!ご飯忘れてたよね?!ごめ〜ん、すぐキャットフード持ってくるから!」 慌てて出ていくハトリを見送り私は小さく溜息を吐いた。 キャットフード……味は悪くないのだが、やはり自称・人間の私としてはねこまんま(・・・・・)ならまだしもキャットフードを食べるには些か抵抗がある。 ……あるのだが、折角私のために買ってきてくれた訳だし、やはり空腹には勝てずに結局毎日食べている。 「お待たせっ」 隣の部屋に置いてあったのか、もうキャットフードの箱を持って戻ってきた。 「さ、遠慮せずどんどん食べて」 山盛りのキャットフードの入った皿をこちらに押しやりながらハトリはにこやかに言った。 いくら空腹でも一度に食べられる量には限度があるのだが……それにいつもと違う匂いがするのは気の所為だろうか。 少し躊躇っているとハトリが不思議そうにこちらを見ていた。 仕方なくゆっくり食べ始めると、「美味しい?」と聞いてきた。 貰ったものに文句を言うのは気が引けるので美味しそうに「にゃぁ」と言っておく。 本音を言えば普通の人間のご飯、いや、せめてねこまんま(・・・・・)がよかったが、それを伝えられる日は来ない。 ヤケクソ気味に山を崩しにかかるとハトリが「余っ程お腹空いてたんだね」などと呑気な事を言った。 誰のせいだ、と突っ込みたい。 試しに少し睨んでみるが、彼女はその意味を真逆にとらえ、再び「美味い?」と聞いてきた。 あまりにも無邪気に微笑むので怒る気も失せ、また美味しそうに「にゃぁ」と鳴いてしまった。 彼女はそれを聞いて満足気に笑う。 私はまだ山の形をしている食事に視線を移し食べ始めた。 何とも言えない食感を味わいながら考える。 毎日食べていれば慣れるのだろうか。 それまで私はこの暖かい家にいられるのだろうか。 出来ることならば…… 「あれ?このキャットフード賞味期限切れてる……えーっと……夕陽、大丈夫?ペッする?」 それまで私はこの暖かい家で生き延びられるのだろうか。 さあ、楽しい飼い猫生活の始まりだ。
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