それは幸運だった

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拘っているのはハトリだけで、つる坊は随分前から飽きていた。 ぶっちゃけ私も飽きてきたので、とりあえず飼い主達について今の時点で知っている事を話しておく。 正式な飼い主はハトリ。 この家の主で、結婚はしていないと思う。 歳は20前後のようだが精神年齢はもっと低い。言動だけ見れば10歳近く下のつる坊の方が冷静で大人に見える。 顔もスタイルも並以上だが、本人は外見などに全く頓着していないようだ。 肩より長い茶髪は結うでもなく無造作に垂らしているし、化粧もしていない。服はパジャマのままだ。少しズボラと言えるかもしれない。 そのまま出掛けないことを願うばかりだ。 対照に、つる坊はきちんとした大人な少年である。 実際は10歳くらいだが、どこか冷めていてもう少し上に見える。 見た目はハトリと少し似ていて綺麗な顔立ちをしている。将来が楽しみだ。 察するに血縁関係なのだろう。 家も近いのかほぼ毎日来ている。 つる坊というのはアダ名で本名は知らない。 ハトリは常に彼を「つる坊」と呼んでいるし、この家でハトリとつる坊以外の人間を見た事がないからだ。 第三の人物が現れるか、つる坊が自分自身を名前で呼ぶという子供らしい事をするか、はたまた猫相手に自己紹介でもしない限り彼の本名は分からないままだろう。 因みにハトリの名前が分かったのは、つる坊がハトリと呼ぶ以前に彼女が「猫相手に自己紹介」を行ったからである。苗字までは言わなかったが。 「あ〜もう夕方じゃない。今日も決まらなかった〜。ごめんね、もう少しナナシちゃんで我慢してね」 「もう妥協しなよ。ナナシでいるよりタマの方がマシだって」 それはそうだが、その言い方は全国のタマに謝るべきだ。 「でもそんなのありきたりって言うか投げやりな感じするっていうか〜」 だから全国のタマに謝りなさい。 「でも思い付かないんでしょ?」 「う〜……そうなのよね〜。全然だめ。こうなったらナナシのナナちゃんって呼ぼうかしら」 「あ〜、良いんじゃない?」 「良くないわよ!」 「なら言わないでよ。はぁ……じゃぁ僕そろそろ帰るね」 つる坊は呆れて帰り支度を始めた。 賢明な判断だ。
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